中国湖南省の小さなライブハウスで、趙北辰さん(32)は舞台袖に集まった女性メンバーの背中をたたき、ステージに送り出した。緊張した表情から一転、笑顔が戻った彼女たちは歌とダンスで会場を盛り上げる。観客席の後方に移った趙さんは拳を握りしめ、自身が手がけるアイドルグループの成長に自信を深めた。
日本式地下アイドル文化が中国に浸透
日本式の地下アイドル文化が急速に浸透する中国では、週末に全国でライブや撮影会のイベントが開かれ、グループ同士によるファン獲得競争が過熱している。趙さんは「オタク」を自負し、〝聖地〟日本でアイドル文化を研究した後、故郷の湖南省長沙で女性アイドルグループのプロデュースを始めた。
日本の楽曲のカバーが主流な中で、現実感のある中国語の歌詞にこだわり自らペンを走らせる。「アイドルは社会になじめない人の代弁者。大衆に受け入れられなくても良い存在だ」と語る。
小学生時代の出会いと衝撃
趙さんが小学5年の時、地元テレビ局が最先端の流行を紹介する番組で「ロリータ」を取り上げた。インターネットで深掘りしていくと、日本で独特の「かわいい」文化やアイドルが社会現象になっていることを知った。中国のスターは成人した大人ばかりだったが、日本のアイドルグループについては「私と同い年の女の子も歌って踊っていた」と当時の出来事を興奮気味に語る。
「卒業コンサートではメンバー全員が号泣。出会いと別れの感動的なストーリーも用意されていて、ドラマみたいで衝撃的だった」と振り返る。
疎外感から生まれたオタクの秘密基地
幼少期から両親の勧めで絵画や歌唱、カンフーなど習い事を始めては半年も続かず、同級生の輪の中に溶け込むのも苦手だった。「ひとりだけ浮いている」というある種の疎外感を感じたが、日本のアイドルに出会い、目の前が急に開けた。
現在は歌詞を書いたり、アイドル好きと交流したりする「オタクの秘密基地」を拠点に活動。邦楽のCDやテープ、芸能関連の書籍がずらりと並ぶその空間で、アイドル文化の浸透に一役買っている。



