北朝鮮が「平和統一」の看板を下ろした実像 専門家が語る南北二国家論への転換
北朝鮮「平和統一」放棄の実像 専門家が語る二国家論

北朝鮮が従来「南朝鮮」と呼んできた韓国を「大韓民国」に改称し、金日成主席以来の悲願だった平和統一の看板を下ろした。長年北朝鮮を研究してきた李鍾元(リージョンウォン)氏は、この戦略的大転換について「統一の追求から、南北が別々の国家としての道を歩む方向にシフトした」と分析する。

「わが国家第一主義」から二国家論へ

李鍾元氏は、金正恩政権の初期から二国家論の兆候があったと指摘する。2015年に標準時間を30分遅らせる「平壌時間」を設定した際、韓国との差別化が狙いだったとの指摘がある。また、金正日総書記の「わが民族第一主義」に対し、金正恩総書記は2017年ごろから「わが国家第一主義」を打ち出し、パレードなどで民族より国家や国旗への忠誠心を誇示するようになった。これが二国家論への前段階だったという。

「金正恩時代の新しい世代による、実情に対する現実的な認識と展望の表れだ」と李鍾元氏は語る。南北の国内総生産(GDP)の差は50倍以上に開いており、北朝鮮主導の統一は非現実的だ。これまで分断以降、強い方が「統一」を主張し、弱い方が「共存」を追求してきた歴史があり、圧倒的な格差がある現在、北朝鮮は現実路線に舵を切ったとみられる。

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韓国文化流入と米朝会談失敗が契機に

国内的には韓国の大衆文化の流入が大きい。文在寅政権時の南北交流で、韓国のドラマや歌が大量に北朝鮮に入り、USB一つに何本ものドラマが詰め込まれた。韓国で人気ドラマが終わると、翌日には北朝鮮の人々が話題にし、話し方をまねる現象が起きた。当局は2020年に「反動思想文化排撃法」を制定し、韓国文化への接触や拡散を厳しく取り締まった。

2018~19年の米朝首脳会談は韓国が仲介役を担ったが、ハノイ会談は失敗に終わり、北朝鮮の韓国への失望と不信感が強まった。その後、板門店の南北共同事務所を爆破し、金剛山観光施設を撤去。2023年末には金正恩氏が韓国を「敵対的な二国家」と公式に主張した。直接の契機は、韓国で北朝鮮を「主敵」とする尹錫悦政権が誕生したことだ。尹政権は北朝鮮側に風船やドローンを飛ばす挑発行動をとったことが明らかになっている。

改正憲法と韓国の変化

最近明らかになった北朝鮮の改正憲法には、韓国を「敵対的」とする表現はない。韓国ではこれを評価する声がある。李鍾元氏は「韓国が進歩(左派)の李在明政権になり、緊張が減じた。南北が普通の国家間の関係なら敵対的にも、そうでない関係にもなりうる」と述べる。韓国・済州道の知事は6月、北朝鮮の要請により腎臓透析器や松の薬剤、デコポンの苗などを支援したことを明らかにした。北朝鮮は必要ならためらいなく支援を頼む姿勢だ。

韓国も二国家を認めるべきかとの問いに、李鍾元氏は「認めた上で対応するしかない」と答える。今年の韓国統一白書の副題は「韓半島平和共存の記録」で、2020年6月には文在寅大統領が「統一を語るよりまず、仲の良い隣人になろう」と演説した。韓国の進歩政権は統一を掲げつつも、実際には平和共存を目指してきた。近年の統一意識調査でも、統一志向より平和(共存)志向が優位になっている。

ただし、問題は北朝鮮内部にあると李鍾元氏は指摘する。長年体制の根幹をなした「統一」の旗幟をおろしたことで、金正恩氏が何かでつまずいた時、政策が間違っていたと批判される可能性がある。

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今後の展望:中ロ関係から日米韓へ

北朝鮮は現在、中国やロシアを中心とした北方政策に回帰しているが、李鍾元氏は早晩、南方(日本、米国、韓国)政策に戻ると予測する。米朝首脳会談が再び行われる可能性もあり、今後の南北関係の行方が注目される。