ケニアの首都ナイロビで、海外の大学生向けに課題のリポートを代筆する仕事を長年続けてきたテレシオス・ブンディさん(34)。しかし、人工知能(AI)の登場により、その需要は急激に減少し、産業はほとんど消滅した。
インターネットがもたらした人生を変える機会
ケニアの農村出身のブンディさんは2011年、家族で初めて大学へ進学するため、ナイロビへ移住した。そこで友人から、不正をする海外の大学生のために課題のリポートを書くというオンラインの仕事を勧められた。
最初の依頼は、ガルシニア・カンボジア(ゴラカ)の健康への効果についての2ページのリポートだった。果物の存在も知らず、依頼主の学生についても全く知らない状態で書き、3時間の作業で7ドルを稼いだ。
「私にとって命綱だった。お金が必要だった」とブンディさんはナイロビでのインタビューで語った。「その夜は眠れなかった。徹夜をいとわなかった」
絶頂期から一転、AIが産業を壊す
ブンディさんはその後の12年間で、2500本を超えるリポートを書いたと推測する。1日に3本書くこともあった。自ら公衆衛生の学位を得つつ、遠く離れた場所で工学、医学、情報科学を学ぶ学生たちの学位取得を支援した。中には、課題の状況がわかるように学校のログイン情報を提供する学生もいた。
当時はインターネットのギグワーク(単発で請け負う仕事)の絶頂期だった。ケニアやフィリピン、インドといった場所の高学歴の若者は、デジタル経済の隙間に機会を見いだし、経済上位階層の人々がやりたがらない地味な作業をオンラインでこなして収入を得ていた。
しかし、2022年にオープンAIがChatGPTを公開すると、状況は一変した。世界中の大学の学生たちは、ChatGPTが仕事を代わりにこなせるのなら、ケニアのフリーランサーに報酬を支払う必要はないと判断するようになった。
細り続けるオンラインギグワーク
リポート作成の仕事は細り始め、料金は下落し、依頼の件数も減少した。あまり時間を経ずに、産業はほとんど消失した。「AIが、こんなことができるとは想像もしていなかった」とブンディさんは語る。
ブンディさんの運命は、世界のオンラインギグ経済に足場を見つけていた他の人々とも共通する。ケニア人は「アップワーク」や「ファイバー」といったフリーランスのプラットフォームを通じて会議の文字起こしをし、フェイスブックの投稿にフラグをつけて削除の判断を手伝った。これらの機会も次々とやせ細っていった。