中国の怒りによる経済制裁は2年で消滅、データが示す限界
中国の怒りによる経済制裁は2年で消滅、データが示す限界

2025年11月の高市早苗首相による台湾有事関連の発言をきっかけに、日本は中国からの経済的威圧に直面している。中国人旅行客の減少や日本人アーティストの公演中止など、いわゆる「対日制裁」が続く中、中国の「怒り」が実際にどれほどの経済的影響を持ち、どの程度持続するのかを検証した学術研究が注目を集めている。

「中国人民の感情を傷つけた」代価はおいくら?

新連載「中国の特色あるヤバい経済学」の第1回では、ジャーナリストの高口康太氏と東京大学社会科学研究所准教授の伊藤亜聖氏が、国際学術雑誌に掲載された3本の論文を基に、中国の怒りが貿易に与える影響を分析した。特に焦点となったのは、いわゆる「ダライ・ラマ効果」である。各国の首脳がチベット亡命政府のリーダーであるダライ・ラマ14世と会見することで中国政府を怒らせた場合、経済にどの程度の影響が出るかを検証している。

1本目の論文は2013年発表の「訪問の代価:国際貿易におけるダライ・ラマ効果」。1991年から2008年にかけて、ダライ・ラマと政府関係者が対面した国を含む159カ国のデータを、国際経済学で標準的な重力モデルを用いて分析した。重力モデルとは、物理の万有引力の法則を応用し、経済規模の大きい国同士は貿易量が多く、地理的に遠い国同士は少ないという関係を基に、通常の貿易額を予測する手法である。このモデルにダライ・ラマとの面会有無という変数を加えることで、その効果を測定した。

Pickt横長バナー — Telegram用の共同買い物リストアプリ

ダライ・ラマ効果の実証結果

分析の結果、強い負の効果が確認された。具体的には、胡錦濤時代(2002~12年、ただしデータは2008年まで)に限り、閣僚などハイレベルの政府関係者がダライ・ラマと会うと、対中輸出額が平均12.5%減少した。国家元首や政府トップが会った場合には、16.9%の減少となった。減少する品目は主に機械・輸送機器に集中しており、これはハイレベルの貿易交渉で契約が交わされやすいためと仮説が提示されている。

しかし、重要なのはこの負の効果が一時的であることだ。効果は会談があった年に最大となり、翌年には縮小、その次の年にはダライ・ラマ効果が完全に消滅する。つまり、中国の怒りによる経済制裁は長続きせず、2年以内に影響がなくなることをデータが示している。

「人民の怒り」の代弁者は誰?

2本目の論文では、中国の民間企業が「人民の怒り」にどう反応するかが分析された。中国政府の公式な制裁とは別に、民間レベルでの取引が減少するかどうかを検証した結果、意外なことに、民間企業の取引は統計的に有意な減少を示さなかった。これは、中国政府が公式に制裁を指示しない限り、企業レベルではビジネスを優先する傾向があることを示唆している。

さらに、ノルウェーサーモンの禁輸事例が紹介された。中国がノルウェーサーモンを禁輸した際、市場には香港経由のサーモンが流入し、価格上昇は一時的だった。このように、制裁は代替供給源によって回避されるケースが多い。

日本が直面する「経済的威圧2.0」

現在の日本に対する中国の対応は、従来の制裁とは異なる「経済的威圧2.0」と位置づけられる。公式な制裁措置ではなく、旅行客の減少やイベント中止など、非公式な圧力が主体だ。しかし、これらの影響も過去の研究と同様、時間とともに減衰する可能性が高い。高口氏と伊藤氏は、データが示す限界を踏まえ、過度な懸念は不要と結論づけている。

Pickt記事後バナー — 家族イラスト付きの共同買い物リストアプリ