南シナ海の大半に「歴史的権利」が及ぶとした中国の主張を国連海洋法条約に基づく仲裁裁判所が退けた判断から12日で10年が経過した。しかし、中国はいまだにこの判決を受け入れず、東シナ海で「管轄権」を主張する動きを強めている。かねて「南シナ海で生じていることは東シナ海でも生じる」と指摘してきた神戸大学名誉教授の坂元茂樹氏(国際法)は、中国の一連の動きを「南シナ海での戦略を東シナ海に拡大する布石」と分析する。
中国の「管轄海域」主張が東へ拡大
中国は東シナ海の日本の排他的経済水域(EEZ)や台湾東側の海域で「管轄権」を主張する動きを強めている。2026年5月には日本とフィリピンが海洋境界画定の交渉を開始することで合意し、その対象海域に台湾東側の海域が含まれていたことに対し、中国は「対抗措置」として反発。国際法上の根拠のない主張が政治的緊張を高めている。
国連海洋法条約は、各国のEEZや大陸棚の境界画定について「国際法に基づいて合意により行う」と定めている。仮に日本とフィリピンの間で境界画定の合意がなされたとしても、この合意は両国を拘束するのみで、第三国である中国を縛るものではない。しかし、中国は台湾を自国の領土と主張しているため、問題となりうるのは台湾と日本、フィリピンの境界の交点の扱いだ。三者の交点を含めず、両国で画定できる部分にとどめれば、中国の領土主権や大陸棚に関する主権的権利を侵害することにはならない。
中国の狙いと南シナ海との連動
坂元氏は、中国の東シナ海での主張強化の背景には、南シナ海での戦略があると指摘する。中国は南シナ海で人工島の建設を進め、軍事拠点化を図っている。仲裁判決は中国の「歴史的権利」主張を否定したが、中国はこれを無視し、実効支配を強化している。今回の東シナ海での動きは、南シナ海での手法を東シナ海に応用しようとするものだ。
中国は、自国の「管轄海域」を拡大する意図を持ち、東シナ海での漁業活動や海洋調査を強化。日本のEEZ内での中国公船の航行が増加し、緊張が高まっている。坂元氏は「中国は国際法を軽視し、力による現状変更を試みている」と警鐘を鳴らす。
日本とフィリピンの対応
日本とフィリピンは、海洋境界画定交渉を通じて、両国の海洋権益を明確化しようとしている。しかし、中国の反発は予想されており、交渉の行方は不透明だ。坂元氏は「日本とフィリピンは、国際法に基づく立場を堅持し、中国の不当な主張に対しては毅然と対応すべき」と述べる。
また、台湾問題が絡むことで、状況はさらに複雑化している。中国は台湾を自国領と主張する一方、台湾は独自の立場を取っており、日本とフィリピンの交渉に台湾がどのように関与するかが焦点となる。
今後の展望
南シナ海仲裁判決から10年が経過したが、中国の海洋進出は衰えを見せない。東シナ海での「管轄権」主張は、中国の海洋戦略の新たな局面を示している。坂元氏は「国際社会は中国の行動を注視し、海洋秩序の維持に向けた協力を強化する必要がある」と強調する。
日本政府は、中国の主張に対して外交ルートを通じて抗議を続けるとともに、自国のEEZの警備を強化している。しかし、中国の強硬な姿勢に対抗するには、国際的な連携が不可欠だ。特に、米国やASEAN諸国との協力が重要となる。
中国の東シナ海での動きは、南シナ海での行動と連動しており、東アジア全体の安全保障に影響を及ぼす可能性がある。今後の展開が注目される。



