投資の世界では「いつ買うか」ばかり注目されがちだが、実は最も難しいのは「いつ、どう売るか」である。S&P500やオルカン(全世界株式インデックス)などの投資信託で利益が出ても、一度に売却すると後悔につながることもある。『投資がうまくいく人の当たり前』(新井和宏/アスコム)から、投資のプロが実践する「分散して売る」という考え方を紹介する。
分散しない人ほど、市場から一発退場していく
投資のリスクをゼロにすることはできないが、リスクを減らす方法はある。その代表的な方法のひとつが分散投資だ。分散投資とは、株式と債券、国内と海外など、複数の投資先に、時間をずらして投資を行うことである。
ひとつの銘柄だけに資金を集中させると、その銘柄が暴落したときに大きな損失を被る可能性がある。しかし、複数の銘柄に分けておけば、ある銘柄が値下がりしても別の銘柄の値上がりが下落分を一部吸収し、全体としてリスクを抑えやすくなる。値動きの波をならすことで、資産は大きく増えすぎることも大きく減りすぎることも避けながら、着実に育ちやすくなる。
株式、債券、不動産、金など、値動きの異なる資産や性質の異なる対象を組み合わせるのが基本だ。投資信託は複数の株式や債券をひとつにまとめた「福袋」のような仕組みなので、自然に分散が利く利点がある。
時間をずらして投資する
分散投資の手法のひとつに「時間の分散」がある。金融商品の価格は常に変動する。一度にまとめて投資するのではなく、購入のタイミングを分けるのが賢明だ。
たとえば、毎月一定額を積み立てる「積立投資」は、価格が高いときは購入量を減らし、安いときは多く買うことになるため、結果として購入単価が平準化される(平準化とは水準の違いによる差がなくなること)。時間を分けることでタイミングのぶれをならし、長期のリスクを抑えられる。
100株を複数回に分けて売る。迷ったら結局一番強いのはこれ
投資の世界では「買うタイミング」ばかりが語られるが、じつは売り時の判断こそ難しい。上がっているときは「まだまだ上がるかもしれない」と欲が出て売れず、下がっているときは「損を確定させたくない」とためらってしまう。
この心理的な揺れを抑える有効な方法が、「売るタイミングの分散」だ。買い時と同様に、売り時も分散させることでリスク回避につながる。積立投資が「購入価格の平準化」を狙うように、売却も複数回に分けることで売却価格の平準化が起こる。
たとえば、「価格が高いときに少し多めに売り、安いときは少なめに売る(高いときは売却株数が少なくなり、安いときは売却株数が多くなる)」と、極端な高値や安値の影響を受けにくくなる。
分散して売却する一例として、100株を4回に分けて25株ずつ売るケースを考えてみよう。相場の推移が900円→1000円→1200円→1100円の場合、4回の平均売却単価は(900+1000+1200+1100)÷4=1050円となる。最初の900円のときに一括売却すると不利になりやすい。1200円のときに一括売却できれば最良だが、「いつ最高値になるのか」をピンポイントで当てるのは難しい。分散しておけば、極端な高値狙い・安値回避の成否に左右されにくくなり、結果として「ほどよい価格」に近づける。価格を読み切れなくても、安定したリターンを確保しやすくなるのが分散の強みだ。
心理的にも、一度で決断するプレッシャーが減り、「あのとき全部売っておけば」「あのとき売らなければ」という後悔が小さくなる。
分散売却は「最高の一撃」ではなく「最悪の一撃を避ける」設計
分散売却は、「最高の一撃」を狙うのではなく、「最悪の一撃を避ける」ための設計だ。売却を一度に行わず、用途や時期に合わせて段階的に資金を戻すことで、「老後資金の一部を取り崩す」「子どもの教育費をまかなう」「再投資に回す」といった、ライフイベントに応じた柔軟な出口戦略を取ることができる。
アクションリストとして、最高値を狙って一度に売るのではなく売る回数を分けること、老後資金や教育費など使う時期から逆算して少しずつ売ることが挙げられる。
投資で本当に怖いのは、損をすることだけではない。自分の判断基準を持たないまま、誰かの言葉、相場の空気、画面上の数字に人生のお金を預けてしまうことだ。新NISA、円安、物価高、混沌とする世界情勢。「今は何を買えばいいのか」と迷う人ほど、まず知るべきことがある。何を買うかの前に、何と向き合うか。上がるたびに浮かれ、下がるたびに折れる投資から、根拠を持って選び、納得して持ち続け、必要なときに悩まず動ける投資へ。はじめたても、ベテランも、一生支えになる「投資の当たり前」をいまなお多くの投資家が信頼を寄せ続ける著者が明かす。



