Figmaが提唱する「ノウハウ共有術」 AI時代に差別化を実現する方法
Figmaの「ノウハウ共有術」 AI時代の差別化策

生成AIの普及により、誰でも簡単にアウトプットを作成できる時代となった。その結果、「どこかで見たような平均点のデザイン」が量産され、他社との差別化が難しくなる「同質化」が大きな課題となっている。

デザインツール大手の米Figmaが発表した「2026 AI Report」によると、デザイン業務に関わる開発者の割合はこの1年で44%から60%に増加。開発業務に関わるデザイナーも21%から41%へとほぼ倍増した。職種の境界があいまいになる中、デザインの成果を左右する要素は何なのか。

プロンプトを隠す組織は淘汰される

Figmaのロレダナ・クリサンCDO(チーフデザインオフィサー)は、優れたデザイナー個人のスキルに依存するのではなく、デザインを構成する要素も、AIに入力するプロンプトも、全てチームで共有すべきだと語る。

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Figmaは6月、米サンフランシスコで年次カンファレンス「Config 2026」を開催し、AIエージェントがデザイン作業を担う新機能群を発表した。同社が掲げるのは、「デザイン」「コード」「AI」を1つの「キャンバス」上でつなぎ、チーム全員が同じ画面で作業する世界だ。

「AIを使いこなす一部の人材に業務が偏り、そのノウハウが組織に共有されないまま終わる。多くの企業が直面するこの問題に、Figmaはどう向き合っているのか。AIで『平均点』しか出せない組織から脱却するために必要な要素を聞いた」とクリサン氏は述べる。

「他人のAI対話」をオープンにする強み

AIはしばしば「インターネットの平均値」を反映した出力を生成するといわれる。そうした状況下で、企業が競合他社と同質化し過ぎるのを防ぎ、競争力を維持するにはどうすればよいか。

「まずは優れたデザイナーを雇うこと。そしてもう一つは、AIの出力を人間がコントロールできるようにすることです。だからこそ当社は、AIからの出力をただ受け取るだけでなく、AIが生成したものを人間がデザインツール『Figma』内で変更できるツールを実装しました」とクリサン氏。

例えば、AIがデザインレイヤー(デザインを構成する個々の要素)を生成しているなら、それを変更できる。アニメーションを生成しているなら、そのためのコントロール機能がある。プラグインを生成しているなら、プラグイン自体に利用者が調整できるパラメーターを用意している。つまり、生成されたクリエイティブな出力そのものだけでなく、そのプロセス全体を「クリエイティブなツール」として設計することが必要だと考えている。

個人のスキルをチームで共有する仕組み

AIを活用した専門的な業務の多くは、依然として一部の高いスキルを持つ人材に依存しているのが実情だ。組織はこうした個人の能力を、どのようにチーム全体で共有できる知識へと転換し、資産としてスケールさせていくべきか。

例えばFigmaにおいては、複数人が同じ画面に同時にアクセスし、リアルタイムでデザインを閲覧・編集できる「キャンバス」を非常に重要なものと考えている。

Figmaがキャンバスを開発し、初めてWebブラウザ上に持ち込んだとき、多くの人々から「正気ではない」という声が上がった。誰もWebブラウザ上でデザインなどしたくないし、自分のデザインファイルを他のデザイナーに見せたくもない、デザインとは単独で担う作業だと考えられていたからだ。

Figmaが軌道に乗った理由は、そうした世界の前提が実は間違っていたからだ。人間には「作りたい」という欲求がある。デザインは、常に評価を伴うものだ。各自のファイルで作業をした後にみんなで集まってアイデアを探求する——。我々は単に、それをより簡単に実行するための方法を作っただけなのである。

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キャンバスの利点は、知識を複合化できる点にも表れている。Figma Config 2026では、AI関連の機能の拡張を発表した。その中で優れていたと感じたことの一つは、さまざまなツールを通じてチームの知識全体を可視化した点だ。

共有されたエージェントとのやりとりを誰もが見られるようになったことで、「同僚はこのプラグインにどのようなプロンプトを支持したのか」「このアイデアはどのようなやりとりから生まれたのか」を確認できるようになった。

「画面を作る」から「ツールを作る」へ

知識を可視化することで、チームやプロダクト作りには具体的にどのような変化が生まれているのか。

プラグインによってチームのメンバーは、生み出された成果物から即座にフィードバックを受けられるだけでなく、それが「どのようにつくられたのか」まで理解できるようになる。興味深いのは、Figma内でデザイナーがエージェントを使えば使うほど、そこで培われたベストプラクティスの一部がスキルやツールへと蓄積されていくことだ。

我々自身のチームでも、デザインへの向き合い方が個人的に変化した。以前は「この問題を解決する画面や体験をつくろう」と、1回限りの完成品を描く発想だった。しかし今では「その解決策をチーム全員が再現できるツール(仕組み)をつくろう」という思考に変わっている。この発想が組織全体に共有され、スケールしているのだ。

そしてもちろん、AI自体が実行段階のハードルを下げてくれる側面もある。例えばアニメーションについて考えてみよう。仮に20個の要素がある画面で、それらをどうつなげるべきか理解していたとしても、実装にはかなりの時間がかかる。そもそも、どうつなげればいいか分からない人がほとんどだろう。

しかし今では、AIアシスタントに「足場作り」を頼むことができる。「次はどうすればよいか」「もっと遅くしたい」「もっと速くしたい」といった要求を伝え、変化を確かめながら、最終的には自分でコントロールすることも可能だ。誰もがアプリの中で、より支えられた体験を得られるようになったことは間違いある。

AIが埋めるのは領域間の「隙間」だけ

誰もがAIツールにアクセスできるようになったAI時代において、真の「ハイパフォーマンスチーム」を定義する条件とは何か。デザイナーやエンジニアといった職種の境界線は、今後どうなっていくのか。

面白いことに、AI時代に求められる「成果を出すチームの条件」は、AIが登場するずっと前から変わらない普遍的な本質である。メンバーそれぞれが自分の専門分野だけに閉じこもるのではなく、お互いの領域を少しずつオーバーラップ(重複)させているチームこそが、最も優れた成果を生み出すのだ。

我々はよく「T型人材」、つまり自分の専門分野には深さと専門性を持ちながら、他の専門分野についてもある程度の理解を持つ人材について話す。

例えば私自身デザイナーとして、開発者が自分の考えたアニメーションをどう実装できるかを、エンジニア向けのQ&Aサイトである「Stack Overflow」で多くの時間を費やして調べていた。自分が作っているものを実装しやすい形にし、開発者が着手しやすいように手助けしたかったからだ。また、デザイナーとして、ビジネス戦略や、なぜそのプロダクトを作るのかという理由そのものにも関心を持っている。

ですから、結局は何であれ、あらゆる領域で深い専門知識を張ることは不可能である以上、それぞれが自分の専門性を保ちながら、チームメンバー一人ひとりの領域が重なり合えば重なるほど、チームは優れたものになっていく。

AIは、専門分野の間にあるその隙間を埋め始めている。かつて私がStack Overflowに多くの時間を費やして調べていたようなことも、今ではAIに尋ねるだけで答えが得られる。同様に、我々はお互いの専門分野に飛び込みやすくなった。しかし、その手軽さを「専門知識」と混同すべきではないと考えている。専門知識とは、全く別のものだからだ。

T型人材への近道はスキルではない

T型人材として成長し、専門性を広げていくには、どうすればよいのか。

その幅への広がりを育む最善の方法は「ユーザーを気遣うこと」だと思う。なぜなら、そこで考慮しているのは「ユーザーのために何をつくっているか」だからだ。

時にはデザインそのものが重要になることもあれば、セキュリティや信頼性、パフォーマンスが重要になることもある。また、ビジネス戦略の方が重要になる局面もあるだろう。

もし自分の担当領域にしか関心を持たなければ、Tの字の「深い部分(縦線)」に留まるだけで、その上の「幅への広がり」には到達できない。画面の向こう側にいるユーザーを気遣えば、ユーザーはそれら全てを一つの体験として総合的に受け取っているわけですから、自然とそのT型の広がりへとたどり着くことができるのだ。