『あの若手はどうして辞めないのか 変わる社会と変わらない若者の本音』(朝日新書/990円/248ページ)の著者で、リクルートワークス研究所主任研究員の古屋星斗氏は、退職者へのヒアリングには大きな見落としがあると指摘する。退職理由を丁寧に聞き、その要因を排除しても定着率は劇的には上がらないという。
退職理由は「去る人の評価」にすぎない
古屋氏によれば、退職者の語りは周囲の納得を得るために練られたものだという。「家族の都合で」「転勤できないので」「上司や同僚と合わなくて」などの言葉は、「それなら仕方ないか」という反応を引き出す。また、「立つ鳥跡を濁さず」の文化もあり、「環境を変えて成長したい」のような表現も選ばれやすい。
さらに、退職理由はあくまで去っていく人による評価である。大多数の社員にとって問題にならないことが、誰かの退職につながるケースもあるが、「その要因をなくそう」という善意の取り組みは、自社の競争力や職場の魅力をかえって損なう可能性がある。
「ゆるい職場」への転換が招くリスク
極端な例として、外資系コンサルなど「アップ・オア・アウト」の厳しい社内競争下でスキルを磨きたい社員は、勤務先が突然「ゆるい職場」へ転換されれば辞めてしまうだろう。企業には変えてはいけない部分があるのだ。
古屋氏は、退職理由に着目するアプローチを続けるなら、自社の制度や風土に欠陥があるのか、辞めた社員との間に残念なミスマッチがあったのか、精査が必要だと述べる。その上で、「それよりも、今会社で、粛々と黙々と頑張っている社員がなぜ辞めていないのか、を気にかけるべきじゃないですか」と語る。
働き方改革が進んだ今こそ必要な視点
働き方改革が進み、多くの企業で職場環境や制度が整ってきた今では、特にそう思うと古屋氏は言う。退職者に時間を使うより、今会社にいる社員の話を聞くことの重要性を強調している。



