カスハラ対策が10月から全企業に義務化、規模や業種問わず対応が必要に
カスハラ対策10月義務化、全企業が対象に

令和8年10月1日より、労働施策総合推進法の改正に伴い、企業に対するカスタマーハラスメント(カスハラ)対策が義務化されます。この義務化は、会社の規模、業種、雇用形態を問わず「全事業主」が対象です。

悪質なクレームによって従業員がメンタル不調に追い込まれ、休職・退職するケースが増えている中、労務管理の視点から、全業種が今すぐ取り組むべき「カスハラ対策の社内体制づくり」が重要になっています。

企業に課される4つの措置義務

企業にはさまざまな措置義務が課されていますが、特に以下の4つの対応が重要です。

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  • 事業主としての方針明確化と従業員への周知
  • 相談に応じ、適切に対応するための窓口体制の整備
  • 被害を受けた従業員へのメンタルケアなどの事後対応
  • 悪質な行為に対する毅然とした対応マニュアルの策定

悪質なクレームに対して「そのうち慣れるから」と現場に我慢を強いて放置した結果、従業員がメンタル不調で休職・退職に追い込まれれば、会社は「従業員を守り、安心して働ける職場を提供する」という「安全配慮義務」に違反したと判断されることもあります。これは行政から指導勧告を受けるだけでなく、企業名の公表の可能性もあります。また、従業員から数千万円規模の損害賠償を請求される重大な民事上の法的リスクに直結することもあります。

SNSが普及した現代では、「従業員を理不尽な脅威から守らないブラック企業」という悪評が瞬く間に拡散され、深刻な人材流出と採用難といったレピュテーションリスクを発生させることになります。

「顧客等」の範囲は広い

厚生労働省の指針が定義する「顧客等」には、店舗の客だけでなく、取引先の担当者、施設の利用者や患者、その家族や保護者、近隣住民まで、事業に関わるあらゆる相手が含まれます。

提供した商品やサービスに落ち度があった場合、改善を求める「正当なクレーム」は真摯に受け止めるべきです。しかし、対応の主な判断軸は「言動の内容」と「手段や態様」の2つです。たとえ要求の中身が妥当であっても、手段や態様が社会通念上許容される範囲を超えれば、カスハラと判断される可能性があります。

例えば、「不良品を渡したのだから今すぐ(遠方の)家まで新品を持ってこい!」といった過度な要求や、「土下座しろ!」「SNSで拡散してやるからな!」といった脅迫や暴言は完全にアウトです。モンスターペイシェントやモンスターペアレント、そして「長年の付き合いだからやってくれるよね!」と無理難題を押し付けてくる取引先の担当者。彼らの理不尽な言動からも、会社は従業員を保護する雇用管理上の措置を講じなければなりません。

形だけの窓口は逆効果

措置義務の中には相談窓口の設置がありますが、「とりあえず総務に『カスハラ相談窓口』のメールアドレスを作ったから法対応は完璧」と満足してしまうのは危険です。形だけの窓口は、かえって組織への不信感を与え、エンゲージメントの低下といった悪影響につながります。勇気を振り絞って相談したのに、窓口担当者から心無い言葉をかけられるといった二次被害に遭うケースもあります。

カスハラ対策で重要なのは、現場を孤立させないための実効性のある対応です。具体的な対応ルールの設定と担当者への専門的な教育が不可欠です。

【NGな声かけ・対応(二次被害を引き起こす例)】

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  • 「相手はお客様なんだから、それくらい我慢してよ」
  • 「君の言い方や接客態度にも問題があったんじゃないの?」
  • 「とりあえず、波風を立てないよう相手が落ち着くまで謝っておいて」

これらは、真面目な従業員ほど「自分が悪かったのだ」と自分を責めてしまう原因になり、精神的にも追い詰められてしまう、ふさわしくない対応です。

【OKな声かけ・対応(組織で守る姿勢を示す例)】

  • 「よく報告してくれましたね。もう、一人で抱え込まなくて大丈夫ですよ」
  • 「その要求は当社のルール(社会通念)を超えているので、これ以上あなたが謝る必要はありません。上の者が代わります」
  • 「録音や記録を残して時系列を整理し、会社として組織で対応しましょう」

このように対応を現場に投げず、企業として事実に基づいて毅然とした態度を示すことが重要です。

今すぐ着手すべき具体的アクション

問題が起きてから慌てて対処する「モグラ叩き」ではなく、あらかじめ準備された管理体制と予防策こそが企業を守ります。義務化に向けて、今すぐ着手すべき具体的なアクションは以下の通りです。

  1. 経営トップからの明確なメッセージ発信:企業の代表者自らが「当社は理不尽な要求から従業員を守ります。悪質なカスハラには組織として毅然と対応します」と社内報やホームページなどを通じて宣言する。
  2. 管理職への教育と「防波堤」としての役割の徹底:「うまくあしらえ!」「我慢しろ!」といった精神論の指導を厳禁とし、部下が被害に遭った際に適切に寄り添い、速やかに組織対応へと引き継ぐ防波堤(二次被害防止)としての役割を徹底させる。
  3. 「対応の打ち切り基準」の設定と現場への権限委譲:「ここを一線超えたら警察に通報する」「弁護士に引き継ぐ」という明確な打ち切り基準を定め、現場の判断で電話を切る・退店を求められる権限を与えておく。
  4. 証拠保持の仕組み化と外部専門機関との連携:電話の自動録音機能や防犯カメラの設置、トラブル記録フォーマットの共通化を進め、警察や顧問弁護士、産業医などにスムーズに連携・相談できる体制を事前に構築する。

カスハラ対策は、単なる法的な義務や面倒な事務作業ではありません。大切な従業員の心身を守り、優秀な人材の離職を防ぎ、結果として企業のブランドや利益を守るための前向きな「投資」です。10月の義務化を機に、自社の社内体制と対応マニュアルを今すぐ見直すことが求められます。