元日本銀行総裁の白川方明氏が、前著『中央銀行 セントラルバンカーの経験した39年』から7年半ぶりとなる新著『通貨に信用を刻印する セントラルバンカーの10の提言』(日経BP 日本経済新聞出版)を上梓した。時代の変化の中で考え続けた軌跡をまとめた本書のタイトルには、通貨の信用をめぐる深い洞察が込められている。
通貨の信用はエコシステムが支える
白川氏はインタビューで、タイトルに込めた意味について「通貨は、中央銀行なり政府なりがパンと刻印して『これが通貨です』と言えば信用力を持つというものではない」と語る。中央銀行は重要なプレーヤーだが、社会のさまざまな要素が関係したエコシステム(生態系)をつくっていかない限り、通貨の信用は確保できないという。
その思いに最も近かったのが、歴史家ニーアル・ファーガソンの『マネーの進化史』にあった「通貨にいかにして信用を刻印するか」という言葉だったと明かす。
市民の理解が不可欠な中央銀行の独立性
白川氏は読者層について「欲張っているかもしれないが、さまざまな読者を想定した」と説明。特に市民を念頭に置き、「通貨の安定は、究極的には財政の持続可能性に支えられている。税金を集めるにも歳出を抑えるにも、国民の理解がなければできない。中央銀行の独立性も国民の理解が不可欠だ」と強調する。
また、金融政策の専門家や政策担当者にも読んでほしいと述べ、中央銀行の役割について多角的な視点を提供している。
ウォーシュ議長への共感と独立性の課題
新著では、米連邦準備制度理事会(FRB)の元副議長ケビン・ウォーシュ氏への共感も示されている。白川氏は「独立性と独善の境界線」というテーマで、中央銀行が独立性を堅持しながらも、社会との対話を欠かさないことの重要性を説く。
さらに、付利政策について「パンドラの箱」と表現し、金融政策の副作用や出口戦略の難しさを指摘。政策の正解はわからないとしながらも、不断の自問自答が重要だと述べている。
総裁時代の決断の背景を核に
前著では総裁時代の決断の背景を核に据えたが、今回はその後の7年半に及ぶ考察を加え、10の提言としてまとめた。白川氏は「答えが出ない問いを自問自答し続けている」と語り、金融政策に絶対的な正解はないとの認識を示す。
本書は、中央銀行の役割や通貨の本質を問い直す一冊として、金融関係者だけでなく広く一般読者にも示唆に富む内容となっている。



