日本を代表するトップリーダーに共通する特質の一つが、どんな場面でも機嫌が良いことだ。無礼な振る舞いを受けても、声を荒げる代わりに静かに問いを投げかける。長年にわたり名経営者を取材してきたノンフィクション作家の野地秩嘉氏が、『プレジデント』2026年7月31日号で明かした「超一流のふるまい」とは、怒鳴らず、無言で最後まで聞き、逆質問をするという姿勢である。
織田信長の実像とリーダーの怒り方
一般的に織田信長は、不機嫌で部下を怒鳴りつけ、罰を与えるイメージが強い。しかし、野地氏が参照した作家や文芸評論家の研究によれば、信長は実際には無闇に怒鳴る人物ではなかったという。この歴史的事実は、現代の経営者にも通じる教訓を含んでいる。
柳井正:遅刻した編集者への一言
ユニクロの柳井正会長は、ある編集者が打ち合わせに遅刻した際、怒鳴ることはせず、静かに「なぜ遅れたのか」と問いかけたという。野地氏はこのエピソードを引用し、柳井氏が感情的にならずに問題の本質を探る姿勢を評価している。
岡藤正広:逆質問の効用
伊藤忠商事の岡藤正広会長は、部下や取引先との会話で頻繁に逆質問を行うという。野地氏は、岡藤氏が「なぜそう思うのか」「あなたの考えは」と問い返すことで、相手の思考を促し、一方的な指示を避けていると分析する。この手法は、相手の主体性を引き出し、不機嫌な態度に陥ることを防ぐ。
豊田章男と鈴木敏文の言葉
トヨタ自動車の豊田章男会長は、セブン&アイ・ホールディングス元会長の鈴木敏文氏から受けた言葉に感銘を受けたという。鈴木氏は「リーダーは怒ってはいけない。怒ると判断を誤る」と語り、豊田氏はこの教訓を経営の基本としている。野地氏は、豊田氏がこの言葉を胸に、冷静な判断を心がけていると指摘する。
不機嫌な経営者が淘汰される理由
野地氏は、現代のビジネス環境では不機嫌な経営者が自然と淘汰されると論じる。理由として、グローバル化や多様性の進展により、感情的なリーダーシップが組織の士気や創造性を損なうからだ。逆に、機嫌の良いリーダーは、社員のエンゲージメントを高め、長期的な成果につながる。
本記事は『プレジデント』2026年7月31日号に掲載されたもので、野地秩嘉氏の長年の取材に基づく。同氏は1957年東京都生まれ、早稲田大学商学部卒業後、出版社勤務を経てノンフィクション作家に。『トヨタの危機管理』『伊藤忠 財閥系を超えた最強商人』など著書多数。



