神奈川県小田原市江之浦にある「八木下農園」は、100年以上続くみかん農家だ。家族3人で営む小さな農園だが、ミシュランガイド掲載店11店を含む150店超の取引先を持つ。
神奈川のみかん収穫量は例年全国10位前後で、2025年の全国シェアは約1.4%しかない。和歌山や愛媛など上位産地が存在感を示す中、家族3人の小さな農園がなぜ一流店に選ばれる存在になれたのか。
直売所の黒板に並ぶ、虎ノ門・西麻布・六本木の名店
7月のある日、訪れたのは、かまぼこの土産物店に隣接する八木下農園の直売所。広い駐車場を共有しているため、車で立ち寄りやすい。看板にはみかんのイラストが描かれ、一目でみかんの直売所だとわかる。
入り口には何枚もの黒板が並んでいた。一番手前には「2026 ミシュラン掲載店 11店舗 お取り引き頂いております」という手書きの文字が。隣の黒板には、取引先の店名がびっしりと書かれている。虎ノ門、西麻布、六本木――。数ある名店の中には、三つ星「明寂」の文字もあった。
店内には瓶詰めのジャムやジュースが陳列されている。試しに「はるみ」という柑橘のジュースをその場でいただいた。まろやかで濃厚な味わいに驚いた。
無名産地は「その他大勢」扱い…市場出荷の悔しさ
八木下農園の長男・修平さん、4代目敏雄さん、妻・和子さんの3人で営む。直売所一本に絞る決断をした背景には、市場出荷での悔しい経験があったという。無名産地は「その他大勢」扱いされ、価格がつかないこともあった。
売上の3割は加工品に。ジャムやジュースなど、加工品にも力を入れている。35品種を栽培し、目指すは「シチリア」だという。40年で初めての「まさか」も経験した。
料理人が求める「おいしさ」の正体を追求し続ける八木下農園。その努力が、ミシュランの名店たちに認められている。



