「松屋に、松屋、開店」――。店舗入り口に続く地下通路にこのような看板が並び、SNSを中心に大きな話題を呼んだ。このキャッチーなフレーズは、多くのメディアに取り上げられ、松屋フーズのPR戦略の巧みさを印象づけた。
「松屋に松屋」が生んだ話題性と売上への転換
「松屋に松屋」というフックは、説明不要で伝わるわかりやすさがあり、見出しになりやすく、SNSでも拡散されやすい構造を持っていた。しかし、PRとして優れた企画は数多く存在する中で、この企画が一歩先を行くのは、話題性を確実に売上実績に結びつけた点にある。
2026年の常設化リリースでは、2025年の期間限定出店が「食品催場における過去最高の売り上げ」を記録したと説明されている。具体的な数字は開示されていないものの、百貨店の食品催場で過去最高を記録したという事実は、単なる話題にとどまらず、実際に購買行動が発生したことを示している。
話題化から常設化への一気通貫した戦略
この実績を受けて、2026年6月、松屋PREMIUMは常設店として松屋銀座にオープンした。話題化し、売れることを確認し、常設店にする――この流れが一本の線でつながっている点が、この企画の強さである。PRで注目を集めるだけでなく、実際の売場でも通用することを確かめてから事業化している。
単なる「面白い企画」を「売れる売場」に変えた。それが、2026年6月の常設店オープンの本質的な意味であり、この一気通貫した姿勢こそが、松屋フーズの業態開発力の根幹をなしていると言えるだろう。
高級化ではなく「いつもの松屋」をデパ地下仕様に
メニュー設計にも巧妙さが光る。松屋PREMIUMの商品ラインナップを見ると、ある共通点に気づく。神戸牛、国産黒毛和牛、国産豚といった素材は確かにプレミアムだが、商品名には「牛めし」「うまトマハンバーグ」「創業ビーフカレー」「トンテキ」など、松屋ユーザーにとって馴染み深い言葉が並んでいる。
これは偶然ではない。松屋PREMIUMは、松屋というブランドを消して高級ブランドを新たに作り上げたのではなく、松屋の記憶を残しながら、素材・包装・売場・接客をデパ地下仕様に昇華させている。
商品ラインナップと価格設定
2025年の催事で販売されていた4品を見ると、常設化にあたり価格は200~380円程度上がっている。商品数も4品から7品に増え、常設店としての品揃えが整えられた。
- 神戸牛牛めし:2025年催事価格1100円 → 2026年常設価格1390円
- 肉倍量神戸牛牛めし:2025年催事価格1700円 → 2026年常設価格2080円
- 国産黒毛和牛のうまトマハンバーグ:2025年催事価格1300円 → 2026年常設価格1681円
- 雪国育ちの濃厚トンテキ:2025年催事価格1300円 → 2026年常設価格1681円
- 創業ビーフRichカレー:2026年常設価格1050円
- 創業ビーフRichカレー×神戸牛:2026年常設価格1681円
- 創業ビーフRichカレー×黒毛和牛ハンバーグ:2026年常設価格1681円
価格はすべて税込み。2025年催事価格は2025年4月催事時の参考値。2026年常設価格は松屋PREMIUM 銀座店の販売価格。出典:松屋フーズ公式リリース(2025年4月2日、2026年6月1日)。
1.53坪に詰め込まれた情報量の多さ
松屋PREMIUMの売場面積はわずか1.53坪と非常にコンパクトだが、そこに詰め込まれた情報量は多い。商品の魅力を伝えるポップや、松屋らしさを感じさせるデザイン、そして何より「松屋に松屋」という強烈なメッセージが、限られた空間で最大限の効果を発揮している。
このように、松屋フーズは単なる話題作りに終わらせず、実績を積み重ねて常設化に至るまで、一貫した戦略を展開した。そのプロセスには、企業としてのマーケティング力、商品開発力、そして実行力が如実に表れている。



