「静かな退職」の部下を覚醒させるのは叱責でも研修でもない…伝説の銀行支店長が「ATMの掃除」を1日やった結果
静かな退職の部下を覚醒させる方法 伝説の支店長の秘策

人事評価で「できない」とレッテルを貼られた社員をどう再生するか。日本全国に約1万4000人いる銀行の支店長の中には、評価でくじけた部下を次々と立ち直らせ、役員にまで育て上げた人物がいる。元都銀マンで経済小説家の黒木亮氏が、実際に目にした「伝説の名支店長」4人のリーダーシップを明かす。

頭取からの電話を無視する名物上司

黒木氏がかつて所属した都市銀行に、長谷川氏という必ず業績を上げる支店長がいた。副頭取まで昇進したが、極めてユニークな人物で、「一日支店長」制度を自ら勝手に作り運用していた。これは支店長と部下の行員が一日だけ仕事を入れ替わるものだ。例えば、長谷川氏が支店の営業フロアの隅で一日中金勘定をする資金係を務め、本来の資金係の若い女性行員が、営業フロア中央の大きな支店長席で融資案件の決裁や営業マンの日報チェックなど、本当の支店長業務を行う。

ある時、本店の頭取から電話がかかってきた。支店長席に座った女性行員は慌てて受話器の送話口を手で押さえ、「支店長さーん、頭取からお電話が入ってますー!」と呼んだ。しかし、資金係の席にいる長谷川氏は「今日はあなたが支店長なんだから、あなたが答えなさい」と返す。女性行員は困り果て、「あの、頭取、今支店長さんにお話ししたんですけど…支店長さんは今日は私が支店長なので、私がお話しするようにと…」と必死に説明した。頭取は苛立った口調で「はぁーん、何言ってるんだ!長谷川はそこにいるんだろ?すぐに電話に出るように言いなさい」と言う。女性行員がすがるような目で「あの、支店長さん、頭取が…」と言うと、長谷川氏は答えもせず、人差し指で彼女を指さした。あなたが答えなさいという意味だ。結局頭取は怒って電話を切ったが、長谷川氏は涼しい顔で札や硬貨を数え、出納用紙に金額を記入し続けたという。

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ATMの掃除で部下を動かす

長谷川氏がATM係を一日担当した時は、一台一台のATMを丁寧に磨きながら、「あなたはよく仕事をしてくれるねえ。お神酒でもかけてあげようかねえ」と入出金量の多いATMに語りかけていたという。このような奇抜な行動が、部下への強いメッセージとなっていた。

黒木氏は、長谷川氏のようなリーダーに共通するのは「人の良いところを見て、人事の糸をほぐす」能力だと指摘する。叱責や研修で無理やり変えようとするのではなく、部下の潜在能力を引き出す環境を整えることが重要だという。

「正攻法」に勝るスタイルはない

伝説の支店長たちは、いずれも「正攻法」を徹底していた。往復3時間の通勤を厭わず鬼のように働く支店長や、期待する行員にはしっかり報いる支店長など、基本を疎かにしなかった。また、オフィスが爆破されるという危機に直面した支店長は、48時間以内に営業を再開する胆力を見せた。本社のルール違反を承知で「売るしかない」と即断し、結果的に大きな成果を挙げた例もある。

「人の良いところだけを見る」という姿勢は最も難しく、最も強いリーダーシップだと黒木氏は言う。「早く、速く」を実践する3つのポイントとして、即断即決、迅速な行動、そして部下への信頼を挙げている。

長谷川氏の「一日支店長」制度は、単なるロールプレイングではなく、部下に責任と裁量を与えることで成長を促す実践的な手法だった。叱責や研修に頼らず、自らが模範を示し、ユーモアを交えながら部下の可能性を引き出す――これが「静かな退職」に陥った社員を覚醒させる真の方法かもしれない。

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