日本では、主のいない古民家が数十万円から100万円ほどで手に入る。それらは、日本人にとっては無価値に近い「負動産」であることが多い。ところがあるとき、リフォーム中の現場にふらりと現れた観光客が、その1軒を6000万円で買っていった。買い手は、オーストラリア人だ。このように、日本人が見捨てた空き家を、外国人はまるで「宝の山」のように買い求めている。古民家から廃旅館、さらに、ニセコの別荘やスキー場まで──その実態を追う。
数十万円の古民家が、6000万円で売れた
私の知人の1人は、愛知県奥三河地方で工務店を営んでいる。彼は、以前から地域で増え続ける空き家を何とかしたいという考えを持ち、私とは地域で開催された空き家対策セミナーを通じて知り合った。ただ、空き家の利活用は非常に難しいというのが現実だ。人口の減少が続き、高齢化が進展する日本で、人々は東京や大阪といった大都市に集中して暮らすようになっている。地方は見捨てられ、家の価値は地域によってはほぼ無価値になっているからだ。
それでも彼は、地域に眠る築年が数十年から100年を超えるような古民家に着目し、これを買い取ってリフォームを施し、田舎暮らしに憧れる都会人に売れないかと考え、活動を始める。主のいなくなった古民家は引き取り手がなく、数十万円から100万円も出せば手に入る。むしろ費用がかかるのはリフォーム代だ。自ら施工するのだが、数百万円から1000万円もの費用がかかる。出口売却価格で2000万円近くを考えていたが、案の定、問い合わせはほとんどなかった。
ところがある日、彼から弾んだ声で連絡があった。「古民家売れたんですよ。ついに」と。最近は、若い人でこうした築年の古い物件を購入する人がいると聞いていた。また、リタイアした人が移住用に買い求める動きもあるので、こうした動きに期待するようにアドバイスをしていたので、ようやく売れたのかと安堵して聞くと、「いや、外国人ですよ。リフォームしている現場に直接来て、この家を買いたいと言うのですよ。びっくりしちゃいました。狐につままれたかと思いました」と答えた。
日本人が「無価値」と捨て、外国人が「宝」と買う
このケースは珍しいものではない。日本全国で、空き家は増加の一途をたどっている。総務省の調査によれば、2018年時点で空き家は約849万戸に達し、そのうち約347万戸が賃貸や売却目的ではない「その他の空き家」、つまり放置された空き家だ。こうした物件は、日本人の間では価値が低く見なされがちだが、外国人投資家の目には宝の山に映る。特に、日本の伝統的な古民家は、海外で高い人気を誇る。オーストラリア人だけでなく、欧米やアジアからの買い手も増えている。
廃旅館・民宿を買い、別荘を建て替えて転売する
古民家だけでなく、廃旅館や廃民宿も外国人投資家の標的となっている。例えば、温泉地や観光地で廃業した旅館が、外国人によって購入され、高級別荘やプライベートリゾートとして再生されるケースが相次いでいる。中には、建物をそのまま活用するのではなく、更地にして新たな別荘を建て、転売する投資家もいる。こうした動きは、地元経済への影響も無視できない。観光客の増加や雇用創出につながる一方で、地価の高騰や地域コミュニティの変化を招く可能性もある。
ニセコの土地は、シンガポール投資家が買い占めていた
特に顕著なのが、北海道ニセコ地域だ。世界的なスキーリゾートとして知られるニセコでは、シンガポールや香港、オーストラリアなどの外国人投資家が土地を買い占めている。彼らは、別荘地やホテル用地として購入し、高級リゾート施設を開発している。地元住民にとっては、土地価格の高騰により住宅取得が難しくなるなどの問題も生じている。不動産事業プロデューサーの牧野知弘氏は、著書『「外国人不動産」問題』で、この現象を詳細に分析している。牧野氏は「日本人が無価値と見なした空き家や土地が、外国人にとっては大きな価値を持つ。このギャップが、日本の不動産市場に新たな流れを生んでいる」と指摘する。
日本の空き家問題は、少子高齢化と人口減少によって今後も深刻化すると予想される。一方で、外国人投資家の需要は、こうした「負動産」を「宝の山」に変える可能性を秘めている。しかし、その影響は地域によって異なり、適切な規制や活用策が求められている。



