電気自動車(EV)への移行が加速する中、日本の自動車産業では2030年までに10万人以上の雇用が影響を受けるとの試算が経済産業省から示された。特にエンジンやトランスミッションなどの内燃機関関連部品を手がける中小部品メーカーで、職種転換や再教育の必要性が高まっている。
EVシフトで変わる雇用構造
経済産業省の「自動車産業の雇用に関する検討会」が2023年に公表した試算によれば、EVの普及率が2030年に20~30%に達した場合、内燃機関関連の部品製造に従事する約10万5000人の雇用が影響を受けるとされる。一方で、モーターやバッテリー、パワーエレクトロニクスといったEV関連部品の生産拡大により、新たに約2万4000人の雇用が創出されると見込まれている。
この変化は単なる雇用数の増減にとどまらず、必要なスキルセットの根本的な転換を伴う。従来の機械加工や組み立て技術に加え、電気回路設計やソフトウェア開発、電池材料の知識など、高度な専門性が求められるようになる。
部品メーカーへの影響と対応
特に影響が大きいとされるのが、エンジンや燃料噴射装置、排気系部品などを製造する中小部品メーカーだ。ある部品メーカーの幹部は「受注が急減する前に、社員のスキルをEV向けに転換する必要がある。しかし、中小企業には教育コストや時間の余裕がなく、支援策が不可欠だ」と語る。
実際、愛知県や静岡県など自動車産業の集積地では、地元の商工会議所や自治体が再教育プログラムを開始している。例えば、愛知県は2024年度から、中小企業の従業員を対象にしたEV関連技術のオンライン講座を無料で提供する計画だ。
地域経済への波及効果
自動車産業は日本の製造業の約20%を占め、関連雇用は550万人以上にのぼる。EVシフトによる雇用の変化は、部品メーカーのみならず、物流や販売、アフターサービスなど周辺産業にも波及する。特に、エンジン部品に特化した地域では、雇用喪失が地域経済全体に打撃を与える可能性がある。
経済産業省の担当者は「単なる雇用の移動ではなく、産業構造そのものの転換を促す必要がある。政府としても、再教育や転職支援のための基金を設立し、地域ごとの実情に合わせた対策を講じる」と述べている。
自動車メーカーの取り組み
トヨタ自動車や日産自動車など大手メーカーも、社内でのリスキリング(学び直し)を推進する。トヨタは2025年までにエンジニア約1万人にEV関連の研修を実施する計画で、日産は社内公募制度を活用し、内燃機関部門からEV部門への異動を促進している。
しかし、課題は中小企業への浸透だ。ある業界団体の調査では、従業員500人未満の部品メーカーのうち、EV対応のための人材育成計画を策定しているのは全体の3割未満にとどまる。
今後の展望と政策支援
政府は2023年に「自動車産業の構造転換に向けた基本方針」を策定し、EV関連の研究開発や生産設備への投資促進と同時に、雇用対策を重点項目に掲げた。具体的には、2024年度から5年間で約1000億円の基金を設け、中小企業のリスキリングや転職支援に充てる方針だ。
また、労働者のスキルを可視化する「ジョブ・カード」制度の活用も進められている。同制度を利用すれば、補助金を受けながら職業訓練を受けられるため、中小企業の負担軽減が期待される。
自動車産業のEVシフトは不可避であり、雇用への影響は避けられない。しかし、適切な支援と準備により、新たな成長分野へのスムーズな移行が可能となる。産業界、政府、地域社会が連携し、変化をチャンスに変える努力が求められている。



