シチズン時計の社長に2025年に就任した大治良高氏は、同社のグローバル戦略について詳細を明かした。スマートフォンやスマートウォッチの普及で時計の役割が変化する中、シチズンはアメリカ市場を中心に好調な販売を記録している。前2026年3月期の時計事業売上高は1970億円(前期比10.0%増)となり、1990年代の過去最高水準に迫る規模に達した。
ブローバ買収の真意と覚醒
2008年に買収したアメリカの老舗ブランド「ブローバ」が、現在の成長を牽引している。大治良氏は「昔のシチズンは価格帯が低く、すべてのお客様を『シチズン』という1つのブランドでカバーするのは難しかった。シチズンブランドにはないデザインや価格帯、ターゲットに合う別のブランドが必要だった」と買収の理由を説明する。
ブローバは2025年にブランド誕生150周年を迎えた老舗で、アメリカ人にとって思い入れのある神聖なブランドとしての価値を再構築できたことが大きい。特に全米のラテン系(ヒスパニック)や中南米の人々の間での認知度が高く、アメリカ中南部やカリブ海クルーズの船上でも人気だ。大きくてゴツくてギラギラした金色の時計が飛ぶように売れており、タトゥーを入れた腕にも負けないインパクトが求められているという。
マルチブランド戦略の成果
シチズンはブローバに加え、2016年に買収したスイスブランド「フレデリック・コンスタント」でも欧州市場を攻めており、長年かけて仕込んできたマルチブランド戦略が成果を上げ始めている。ブローバはラテングラミー賞のスポンサーを務め、ラテン歌手のマーク・アンソニーをアンバサダーに起用してヒスパニック層へのアプローチを強化。現在では2000〜3000ドルクラスの高価格帯モデルも増えている。
アメリカ市場は今やシチズンにとって最大市場であり、屋台骨となっている。為替影響を除いた現地通貨ベースでも、売上規模はコロナ前の2019年度比で1.6倍、最も落ち込んだ2020年度比では2.4倍に拡大。大治良氏は「市場そのものが2倍になったわけではないので、これは競合のシェアを着実に取れているということだ」と分析する。
デジタル疲れと機械式時計への回帰
デジタル機器に疲れた若者の間で、機械式時計への回帰現象も追い風となっている。シチズンは普及価格帯を得意としてきたが、高付加価値化を進めており、スイス勢が世界市場の7割を占める時計市場に切り込む戦略だ。大治良氏は「シチズンブランドでは作れないテイストを、ブローバが担っている」と述べ、ブランドごとの差別化を強調した。
今後の展望
シチズンは今後もマルチブランド戦略を推進し、地域ごとに最適なブランドを展開することでグローバル市場での存在感を高める方針だ。ブローバの成功をモデルに、他の買収ブランドでも同様の価値再構築を図る可能性がある。また、デジタル疲れによるアナログ時計への回帰は、業界全体にとって追い風となるだろう。



