朝晴れエッセー8月月間賞に「夫の散髪」 秋田市の桂晴子さん
朝晴れエッセー8月月間賞に「夫の散髪」 秋田市の桂晴子さん

朝晴れエッセーの8月月間賞に、桂晴子さん(76)=秋田市=の「夫の散髪」が選ばれた。50年の歴史が詰まった、夫だけの床屋。月日の流れとともに、真っ黒だった太い毛は細くなり、白髪も目立つように-。旅立った夫の髪を静かに切る最期の瞬間まで、筆者の深い愛情が描かれた。

選考委員の評価

選考委員は作家の玉岡かおるさんと門井慶喜さん、細井伸彦・産経新聞大阪本社編集長。8月の応募作品について、3人がそれぞれ評価を述べた。

「夫の散髪」について、門井さんは「ただの散髪だけど、何十年もの歴史が乗っかっています。だんだんと変化する髪質の描写によって、読者にも時の流れがよく分かる。亡くなった後に遺髪として描いている点でも、髪の毛にこれだけ大きな時間を乗せて読ませることができ、非常に独自性があってよかったです」と評した。

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細井さんは「300回もはさみを入れてきたからこそ分かる髪質の変化は、とてもリアルでした。亡き夫の髪をもらう描写は筆者の愛情をひしひしと感じます」と話した。玉岡さんは「火葬前日の『(息子の)『もったいないなあ』。父親の体がこの世から消えてしまうことへの無念であった』の2文はとても心に響きました」と述べた。

その他の話題作

8月は終戦81年を迎え、戦争を描いた作品も多かった。玉岡さんが◎を付けた「船上の兵士」(8月6日、東京都杉並区・山崎保さん)について、「光景が目に浮かぶ作品です。『大河のような海峡』という表現にすーと視界が開けました。出兵する兵士が帽子を振り大声で叫んでいる描写に加え、最後は『一声の汽笛を残し』と音が聞こえる。動く絵のようなエッセーに心引かれました」と語った。

門井さんは「届けもの」(8月21日、福岡県大牟田市・中村裕子さん)に○を付け、「7月下旬に起きた熊本地震の被災地に向かう息子を描いた作品。息子は恩人のために熊本に向かい、人としての義務を果たそうとしていると話が進む中で、3段落目に『更なる余震がないことを祈った』と唯一私の感情が出てくる。親心が胸に迫りました」と評価した。

月間賞決定

細井さんが「◎が重なった『夫の散髪』でいかがでしょうか」と提案し、門井さんと玉岡さんも「そうしましょう」と同意。8月月間賞に決定した。

受賞作「夫の散髪」で桂さんは「50年前から始まったわが家の床屋は、私の技術が上達せず、襟足や耳回りを短く整えて終わりでした。夫はいつも同じ髪形。それでも毎回『ありがとう』と言ってくれました」と振り返る。夫は伝統音楽を研究していた20代の頃、南太平洋のニューヘブリディーズ諸島(現・バヌアツ)で1年間、原住民と暮らし、彼ら独自の楽器や音楽を教わっていたという。

夫は60代で心筋梗塞で倒れ、亡くなるまでの数年はつらそうだった。「夫の細くなった髪にはさみを入れるたび『これが最後になるかもしれない』と思ってきたんです。毎回髪の毛を残しておこうか迷っては、それをしたら本当に夫がいなくなってしまう気がしてできなかった。亡くなった夫の髪をひとつまみもらったのはそんな思いからでした。数十本の髪ですが、今も触れるたび、夫といるような気持ちになるのです」とつづっている。

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