大和証券のチーフエコノミスト、末廣徹氏は、円安が日本経済に与える影響について、従来の「Jカーブ効果」が機能しておらず、むしろ「悪いJカーブ効果」が顕著であると指摘する。同氏の分析によれば、円安局面にもかかわらず輸出数量の顕著な増加は確認されず、純輸出の改善は主に内需低迷による輸入減少に起因しているという。
Jカーブ効果の基本と現代の日本経済への適用
Jカーブ効果とは、自国通貨の減価(円安)が短期的には輸入価格の上昇を通じて交易条件を悪化させ、純輸出を押し下げるが、その後は価格競争力の改善により輸出数量が増加し、純輸出が改善に向かうという経路を指す。このメカニズムが成立するためには、輸出数量が為替変動に対して十分に弾力的であることが前提となる。しかし、末廣氏は、企業のグローバル展開や国内の供給制約の強まりにより、この前提が現代の日本経済では成立していないと主張する。
「悪いJカーブ効果」の実態
近年の日本経済では、円安にもかかわらず輸出数量の顕著な増加が見られない一方で、純輸出(名目)は改善している。この乖離は、従来型のJカーブ効果とは異なるメカニズムを示唆している。具体的には、実質賃金の低迷を背景とした内需の弱さが実質輸入を押し下げ、その結果、純輸出が改善している。末廣氏はこれを「悪いJカーブ効果」と呼び、輸出拡大による成長押し上げではなく、輸入抑制による受動的な改善であると指摘する。
円安ショックのピークとその後の影響
ドル円相場の前年比変化を確認すると、2023年度に円安の進行が最も顕著であり、この局面は実質的な「円安ショック」と評価できる。その後も円安圧力は継続しているが、変化率の観点から見ればショックのピークはこの時期であった。末廣氏は、この時期以降も「悪いJカーブ効果」が継続していると分析する。
製造業の国内回帰は進んだのか
円安は製造業の国内回帰を促進すると期待されてきたが、末廣氏はその進捗に疑問を呈する。内外設備投資比率とドル円相場の連動性は低下しており、企業は国内回帰よりも海外生産を優先する傾向が続いている。円安の便益が実現されにくい一方で、コスト(輸入価格上昇など)が可視化されやすい状況が続いている。
結論:3つのJカーブ効果のうち「悪い」が目立つ
末廣氏は、Jカーブ効果を3つに分類し、そのうち「悪いJカーブ効果」が現在の日本経済で最も顕著であると結論付ける。円安のプラス効果を引き出すためには、輸出数量の弾力性を高める構造改革や、内需の活性化が必要であると示唆している。



