岐阜県の下呂温泉で、温泉水を利用したうなぎ養殖が始まり、注目を集めている。一般的なうなぎ養殖は土用の丑の日に出荷を集中させるが、ここでは稚魚の投入時期を分散し、通年供給を前提とした体制を構築。観光地として季節を問わず提供できることが強みだ。
初年度8000尾、将来は5万尾へ
今年7月の初出荷を皮切りに、初年度は地元のスーパーやうなぎ料理店などに向けて年間8000尾の出荷を見込む。将来は年間5万尾まで拡大したい考えだ。
養殖を手がけるのは、岐阜県下呂市のTri-win。代表の伊藤通康社長は、スーパー経営から屋台村運営を経て、うなぎ養殖に新規参入した。
スーパー廃業、屋台村苦戦からの転換
伊藤社長は祖父の代から続くスーパーマーケットを継承したが、人口減少やドラッグストアの進出による価格競争の激化を受け、2014年に廃業を決断。「スーパーマーケットは、値下げしないと勝てません。でも、それを続けるほど売り手も買い手も、地域の生産者も疲弊していきます。弊社の経営理念である『三方よし』が成り立たなくなっていたんです」と振り返る。
スーパーの跡地を活用して立ち上げた観光客向けの屋台村では、集客やPRを全体で行い、飲食店経営者の挑戦を後押しする「三方よし」を実現したが、コロナ禍で観光客が激減。
温泉宿の相談が転機に
新事業を模索する中で、温泉宿を経営する夫婦から「温泉をボイラーで沸かし直す燃料代が経営を圧迫している」との相談を受けた。温泉は源泉が熱すぎれば冷まし、ぬるければ加温する必要があり、原油価格の上昇が直接経営を圧迫する。
そこで、温泉をそのままの温度で活用する道を模索。高密度飼育が可能で販売単価が高く、販路が広い魚種として、うなぎにたどり着いた。
新規参入の壁:抽選でしか枠を得られない
しかし、うなぎ養殖への新規参入には高い壁があった。水産庁の許可制度の下で、国内の養殖量は国際的な枠組みで厳格に制限されており、新規参入は既存事業者の撤退などで生じた空き枠を抽選で獲得するしかない。抽選自体が行われない年もあるという。
伊藤社長はこの難関をクリアし、温泉水を活用した独自の養殖を実現。源泉温度は年間を通じて約29度で、入浴には加温が必要だが、養殖にはそのまま活用できる強みがある。
軽い口当たりと低価格を実現
温泉水で育てられたうなぎは、脂がのりながらも軽い口当たりが特徴で、価格も抑えられている。観光地である下呂温泉の特性を生かし、季節に関係なく提供できることが価値となっている。



