愛知県岡崎市で、松坂屋跡地の再開発が失敗に終わり、商業地としての衰退が加速している。総事業費76億円を投じた「ハコモノ再開発」は、高級路線を志向した結果、地元住民の購買行動と乖離し、商店街の空洞化を招いた。
76億円の再開発計画とその背景
岡崎市は名古屋や豊田に比べて購買力が低いとされ、地元の商店主たちは「身の丈に合わない再開発」に踏み切った。再開発の中心となったのは、松坂屋を核テナントとして迎え入れた商業施設「レオ」である。執行部は、高級品を充実させなければ買い物客が名古屋に流出するという危機感から、高級路線を打ち出した。
しかし、この戦略は地元住民の実情と大きくずれていた。岡崎出身の86歳の女性は「岡崎の人はスーパーが好き。いいものを買うなら松坂屋。だけど、名古屋へ行くこともあった」と振り返る。住民は日常的な買い物にはスーパーを利用し、高級品は必要に応じて名古屋で購入するという習慣を持っていた。
「お客さんを教育したい」という発想
佐口隆雄副理事長は、再開発当時のインタビューで「お客さんの満足を得ることだけに追われると、逆に今度は自分のほう(専門店側)が下がって参りますから、お客さんを教育するといういい方はおかしいでしょうけれど、何とかその辺まで持っていきたい」と発言。この言葉に象徴されるように、地元が目指したのは市民のニーズに合わせることではなく、市民の消費そのものを引き上げることだった。
しかし、この考え方は市民の実感と一致しなかった。レオに入居した専門店の経営者は、高級品を狙いすぎた結果、かえって地元客との距離が開いてしまったと指摘する。商店街は「売りたいもの」と「買いたいもの」のずれに苦しむこととなった。
他の地域でも見られた同様の失敗
このような「売る側の都合」による再開発の失敗は、岡崎だけの話ではない。本連載で取り上げた埼玉県春日部市でも、地元百貨店が高級品で街の消費水準を引き上げようとしたが、市民が求めていたのは高級ブランドではなく、毎日の食卓に並ぶちょっと良い食品だった。岡崎でも同様のパターンが繰り返されている。
松坂屋跡地のマンション下層階にはスーパーが入居しているが、かつての百貨店の面影はなく、商店街全体の衰退は続いている。再開発の失敗は、地域の実情を無視した「ハコモノ」優先の開発手法の問題点を浮き彫りにしている。



