リニア静岡工区着工めぐる9年間の迷走 川勝前知事が国交省局長を名指しで「恥を知れ」
リニア静岡工区着工めぐる9年間の迷走 川勝前知事が局長批判

2027年の開業を目指すリニア中央新幹線にとって、静岡工区は最大の難所だった。着工が遅れれば開業も遠のく。そんな中、2017年10月10日、水の問題をめぐりJR東海と静岡県の対立が決定的になった。

「水は一部戻してやるから、ともかく工事をさせろという態度だ。わたしの堪忍袋の緒が切れました」。静岡県庁で行われた川勝平太知事(当時)の定例記者会見。川勝氏は厳しい表情でこう言い放った。

JR東海の「一部戻す」提案に県が反発

JR東海は2013年、静岡県を縦断する大井川の流量が、毎秒最大2トン減るとの予測を公表。大井川上流部の南アルプスのトンネル掘削で湧き水が出るためだ。「全量は戻せないが一部は戻す」と県側に理解を求めた。

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県側はこれに反発。静岡工区の着工には、河川法などに基づく知事の許可が必要だ。大井川の水は流域10市町にとってなくてはならない。名産の茶畑にも酒造りにも、飲料にも使われている。流域では過去、「水枯れ」が繰り返され、水の確保は地域の最優先課題だった。

川勝氏は「命の水」だとして対応を求めたが、議論は平行線をたどった。

JR東海が「全量戻す」に歩み寄るも議論は拡大

JR東海がようやく「原則として全量を戻す」と歩み寄りの姿勢を見せたのは、2018年になってから。だが県側は独自に有識者会議を設け、環境をめぐる議論を南アルプスの生態系などにも広げていった。

県側からの求めもあって、国土交通省が動いたのは2020年のこと。水や土木の専門家による有識者会議をつくり、議論を整理しようとする。しかし川勝氏の納得は簡単には得られない。

2024年3月、JR東海は27年の開業を正式に断念すると公表した。

不信感の連鎖が招いた長期化と影響

議論はなぜ長引いたのか。経緯をたどると、JR東海、県、国がそれぞれ信頼関係を築けなかった状況が浮かび上がる。静岡県、JR東海、国交省——三すくみの不信感の解消が遅れ、事業費が膨らんでいく。開業を見越した沿線のまちづくりに影響が及び、工事のリスクが顕在化した。

国交省の水嶋智鉄道局長(当時)は、川勝氏から「恥を知れ」と名指しで批判されるなど、関係は悪化の一途をたどった。

9年越しの着工容認、課題はなお山積

2026年7月、静岡県の新たな知事が着工を容認する姿勢を示したことで、ようやく工事着手のめどが立った。しかし、すでに開業時期は不透明となり、事業費は当初の9兆円を超えて膨らむ見通し。リニア開発64年、車両は実用レベルに達しているが、静岡工区の着工が遅れたことで全線開業の見通しは立っていない。

沿線自治体では、開業を見越したまちづくり計画の見直しを迫られるケースも出ている。工事の安全面でも、トンネル掘削に伴う地盤沈下や湧水の影響が懸念され、今後も注視が必要だ。

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