白川方明元日銀総裁、新著で問う「通貨の信用」と中央銀行の役割
白川方明元日銀総裁、新著で問う通貨の信用と中央銀行の役割

元日本銀行総裁の白川方明氏が、前著『中央銀行 セントラルバンカーの経験した39年』から7年半ぶりとなる新著『通貨に信用を刻印する セントラルバンカーの10の提言』を日経BPから刊行した。2008年のリーマン・ショックから2013年の退任まで日銀の舵取りを担った白川氏は、本書で中央銀行の役割や金融政策の本質について深く考察している。

タイトルに込めた「通貨の信用」への思い

白川氏はタイトルについて、歴史家ニーアル・ファーガソンの『マネーの進化史』にある「通貨にいかにして信用を刻印するか」という言葉に触発されたと説明する。「通貨は、中央銀行なり政府なりがパンと刻印して『これが通貨です』と言えば信用力を持つというものではない。もちろん中央銀行は重要なプレーヤーではあるが、社会のさまざまな要素が関係したエコシステム(生態系)をつくっていかない限り、通貨の信用は確保できない」と語る。

想定読者は市民から専門家まで

白川氏は読者として「欲張っているかもしれないが、さまざまな読者を想定した」と述べ、まず市民を挙げる。「通貨の安定は、究極的には財政の持続可能性に支えられている。税金を集めるにも歳出を抑えるにも、国民の理解がなければできない。中央銀行の独立性も国民の理解が不可欠だ」と強調する。

Pickt横長バナー — Telegram用の共同買い物リストアプリ

また、金融政策の実務者や研究者、さらには中央銀行の役割に関心を持つ全ての人々に向けて書かれたという。本書では、白川氏が日銀総裁として経験したリーマン・ショック後の未曾有の金融危機や、その後の非伝統的金融政策の展開を踏まえ、中央銀行の独立性と説明責任のバランスについても論じている。

ウォーシュ議長への共感と独立性の課題

白川氏は、かつて米連邦準備制度理事会(FRB)の副議長を務めたケビン・ウォーシュ氏の考えに共感を示す。ウォーシュ氏は、中央銀行の独立性は「民主的な説明責任」と表裏一体であり、独立性を盾に独善に陥る危険性を警告している。白川氏も「独立性と独善の境界線は極めて曖昧だ。中央銀行が社会との対話を怠れば、その信用は失われかねない」と指摘する。

さらに、日銀が導入したマイナス金利政策や長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)について、白川氏は批判的な立場をとってきた。本書では、付利(預金準備に対する利子)をめぐる政策が「パンドラの箱」を開けたと表現し、その副作用についても詳述している。

「答えが出ない問い」と向き合う中央銀行の使命

白川氏は「政策の正解はわからない」と率直に認める。中央銀行は常に不確実性の下で判断を迫られ、答えの出ない問いと向き合い続けなければならないという。その姿勢は「答えが出ない問いを自問自答し続けている」という言葉に集約されている。

本書は全10章で構成され、通貨の信用、中央銀行の独立性、金融政策の限界、財政との連携、国際協調など、幅広いテーマを扱う。白川氏は、39年にわたる中央銀行家としての経験と、退任後も続けてきた研究・講演活動を通じて得た知見を基に、現代の中央銀行が直面する課題への提言をまとめている。

金融政策が大きな転換期を迎える中、白川氏の新著は中央銀行の役割を再考する貴重な機会を提供する。特に、物価安定と金融システムの安定をどう両立させるか、中央銀行の独立性をどう維持するかといった問いは、今後の政策運営においても重要な示唆を与えるだろう。

Pickt記事後バナー — 家族イラスト付きの共同買い物リストアプリ