なぜ自然界に青は少ないのか?ラピスラズリからゴッホ、人工の青まで
なぜ自然界に青は少ないのか?ラピスラズリから人工の青まで

空や海は青く見えても、自然界に絵具のような青い物質はほとんど存在しません。青色は身近なようでいて、実はとても珍しい色なのです。本稿では、なぜ青が自然界に少ないのか、人類がどのようにして青を手に入れてきたのかを、ラピスラズリや人工顔料の歴史、名画との関わりを通して解説します。

なぜ自然界に青は少ないのか

ものが青く見えるとき、その物質は青色を反射し、赤や黄色の光を吸収しています。植物では、ナスや紫キャベツの色を出すアントシアニンという物質がこれにあたりますが、本当の青になるには、アントシアニンのサブグループであるデルフィニジンが「弱アルカリ性」「アルミニウムがある」「他の色素とのコラボレーション」という3つの条件を同時に満たす必要があります。しかし、ほとんどの生き物の外側は弱酸性であるため、この条件を満たすのは難しいのです。

モルフォチョウやアオスジアゲハの見事な青色は、色素ではなく、CDが虹色に見えるような構造色です。空の青は大気分子によるレイリー散乱が原因で、海が青く見えるのは、水がわずかに赤い光を吸収しやすいためです。海水をすくえば透明なように、大量の水があって初めて青く見えるのです。

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ラピスラズリの発見とその歴史

アフガニスタンのサリ・サンガ(サリ・サンガは「石の頂」の意味)鉱山では、真っ青な石、ラピスラズリ(瑠璃)が発見されました。発見は7000年前ともいわれ、鉱物として人類が最初に利用したものとされています。アフガニスタンは首都カブールの標高1800メートル、最高峰ノシャック山は7000メートル級という山岳国家で、サリ・サンガは標高3500~5000メートルの高地にあります。

ラピスラズリは、石灰岩にマグマが貫入して熱変性を起こして誕生したスカルン鉱物です。日本には石灰岩の山や火山が多く、ラピスラズリがあってもよさそうなものですが、ほとんど産出しません。ただし、最近になって糸魚川でも発見されたとニュースになりました。

ラピスラズリは、他にない青色(ラジュール→アズーリ)であることから珍重され、交易を通じて世界中に広がりました。アフガニスタン周辺のペルシア(イラン)やインド、トルコ、エジプト、ロシア、中国、そして日本でも正倉院の宝物にラピスラズリが含まれています。ウズベキスタンの世界遺産「青の都」サマルカンドに見られるラピスラズリとトルコ石のアラベスク模様の建物は、富や権威の象徴、神聖な場とされました。

人工の青の誕生と名画への影響

ラピスラズリは硬度が6程度と中程度で、削って顔料絵具として使われました。ウルトラマリンと呼ばれる深い青は、同じ重さの金よりも高価だったといいます。しかし、人気が高く、非常に特殊な条件でしかできない鉱物であるため、良質なものはほとんど採掘されつくしてしまいました。現在も産出はしていますが、かつてのように壁面全体を覆うような大量で贅沢な使い方はできません。

人類はこの青を何とかしようと試行錯誤し、1706年にベルリンの染色職人が偶然、プルシアンブルーを発見しました。プルシアンブルーは鉄とフェロシアン化合物の反応ででき、自然界にありふれた鉄から比較的簡単に作れるため、18世紀から19世紀にかけてヨーロッパで大量生産され、安く、大量に、安定して供給されるようになりました。日本にはベロ藍の名前で伝わりました。

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この青に注目したのが葛飾北斎(1760〜1849年)で、1820年ごろからこの青を使って空と海の版画を量産しました。代表作は富岳三十六景で、特に「神奈川沖浪裏」は世界的に有名です。これらの版画がヨーロッパに渡り、ゴッホ(1853〜1890年)に影響を与えました。ゴッホはプルシアンブルーや人工ウルトラマリン、1802年に発明されたコバルトブルーも用いていました。

一方、現在話題のフェルメール(1632〜1675年)は、プルシアンブルー以前の画家で、「真珠の耳飾りの少女(青いターバンをした少女)」で使われた青は、ラピスラズリを砕いた高価な絵具ウルトラマリンでした。当時は金よりも高かったといいます。

現代の青と青色LEDの話

現在では、子供でも青い絵具を使えますが、これは1930年代に発明されたフタロシアニンブルーである可能性が高いです。ウルトラマリンも1828年には合成が可能になり、19世紀に発明されたセルリアンブルーも使われています。ブルーハワイは、20世紀に発明された青色1号(ブリリアントブルー)という色素を使っています。

このように、現在では人工の青があふれていますが、自然界にはやはり希少です。構造色や、アントシアニン由来でレモンを加えると(酸性で)ピンクに変化するマローブルーのような、不安定で色が変わるものなどがあります。青は人工的なものが多いというのは、あまり間違っていないといえるでしょう。

なお、日本人が発明した青色LEDの話には、今回は触れることができませんでした。