AIに頼りすぎると「自分で考える力」が衰える…人工生命研究者が警鐘
AIに頼りすぎると自分で考える力が衰える…研究者警鐘

人工生命研究者の岡瑞起氏(筑波大学准教授)は、著書『AIの時代に頭がよくなる人悪くなる人』(日経BP)において、AIへの過度な依存が人間の思考力や主体性を損なう危険性を指摘している。同氏は、最近の新入社員の中には、取引先に送るメールを必ずAIにチェックさせる者がいるという事例を紹介。AIに頼りすぎた結果、自分の判断に自信が持てなくなり、自分の言葉で表現できなくなる懸念を示している。

全員がVIP待遇の状態に

岡氏は以前、富裕層の方々と3日間過ごす機会があったという。彼らにはお付きの人が常に付き添い、朝起きてから夜寝るまで全てをサポートしてくれる。朝にはLINEで「今日の予定はこうです、まずホテルの1階に降りてきてください」と連絡が来て、下に降りるとお付きの人が待っており、外に出ると車が待っている。どこに向かっているのかもわからないまま連れて行ってもらう。自分で考える必要は一切なかった。驚いたことに、その待遇にすぐに慣れてしまったと岡氏は振り返る。最初は「申し訳ない」と思っていたが、3日目にはそれが当たり前になっていたという。

「自分で考えて動く」感覚が鈍る

岡氏は、ハイパーパーソナライゼーションが究極まで進んだ世界はまさにこの状態であり、全員がVIP待遇になると指摘する。例えば引っ越しを考えてみよう。住所変更の届け出、水道、電気、ガスなど、一つひとつ自分で手続きしなければならない。しかしAIエージェントがいれば、「1カ月後に引っ越します」と言うだけで、すべて自動的に処理される。ガスの開栓など立ち合いが必要な場合は、「この日のこの時間に在宅してください。他の予定はすべて調整しておきました」と言われる。全てを先回りして情報が処理される。優秀な秘書がずっと横にいるイメージだ。

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冒頭の3日間の体験から戻った後、自分でコンビニに行くのすら、なんだかぎこちなく感じた。たった3日で、「自分で考えて動く」感覚が鈍っていたのだ。お金があるのに生活する力が失われていく――AIエージェントが全員に行き渡った世界では、私たちはみんな、似たような状態になるかもしれないと警鐘を鳴らす。

スマートフォンとの違い

今でさえ、スマートフォンがないと外出するのが不安な人は少なくないはずだ。どうやって目的地に行けばいいかわからない、電話番号も覚えていない、地図も読めない。しかしスマートフォンは、まだ私たちが能動的に情報を取りに行く道具である。検索するにしても、自分で言葉を入力しなければならない。一方、AIエージェントは、こちらから何もしなくても、先回りして情報を提供してくれる。危ういのは、便利過ぎることだ。一度経験すると、あっという間に依存してしまうはずだと岡氏は警告する。

AIに「選ばされて」いる

岡氏は、AIが選択肢を提示することで、人間が主体的に選ぶ機会を奪われる危険性も指摘する。例えば、レストランの予約をAIに任せると、AIが最適と判断した店を提案してくる。しかし、その判断基準はあくまで過去のデータやアルゴリズムに基づくものであり、自分の直感や好奇心が介在する余地は少ない。結果として、私たちはAIに「選ばされて」いる状態になりかねない。

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便利さと引き換えに手放しているもの

岡氏は、便利さと引き換えに、私たちは「自分で考える力」や「失敗から学ぶ経験」を手放していると述べる。AIに全てを任せることで、短期的には効率的だが、長期的には人間の成長や適応力を損なう可能性がある。特に、新入社員がメールをAIにチェックさせる習慣は、自分の文章力や対人コミュニケーション能力を育てる機会を失うことにつながると警鐘を鳴らす。

自分の判断に自信が持てなくなってしまう

岡氏は、AIに頼りすぎると、自分の判断に自信が持てなくなるという悪循環に陥ると指摘する。例えば、AIが「このメールは失礼です」と指摘した場合、自分では適切だと思っていても、AIの判断を優先してしまう。その結果、自分の感覚や判断力を信用できなくなり、ますますAIに依存するようになる。このサイクルが続けば、最終的には自分の言葉でコミュニケーションを取ることが難しくなるだろう。

本書では、AI時代に「頭がよくなる人」と「悪くなる人」の違いを、こうした依存度の差に見出している。岡氏は、AIを道具として活用しつつも、自分の思考や判断力を鍛え続けることの重要性を強調している。