理化学研究所などの国際共同研究グループが、脳内の神経幹細胞を若返らせて活性化する新技術「iPaD」を開発し、アルツハイマー病モデルマウスの症状を改善することに成功した。この研究成果は、米国の科学誌「Cell Reports」に2026年5月12日付で掲載された。
神経新生の低下がアルツハイマー病の鍵
脳では、神経幹細胞と呼ばれる細胞から、記憶や学習に関わる新しい神経細胞が日々生み出されている。しかし、この働きは加齢とともに衰え、特にアルツハイマー病を発症すると機能が低下してしまう。さらに、アルツハイマー病患者の脳内には「アミロイドβ」という異常なタンパク質が蓄積し、神経細胞にダメージを与えて記憶障害を引き起こす。
これまでも、神経細胞を新しく生み出して機能を回復させる研究は行われてきたが、効果が一時的なものにとどまったり、原因となるアミロイドβの蓄積までは減らせないなどの課題があった。
iPaD技術で神経幹細胞を若返らせる
研究グループは、加齢で働きが鈍った神経幹細胞を若い状態に戻す「iPaD(inducing Plagl2 and anti-Dyrk1a)」と呼ばれる技術に着目した。これは、胎児期に活発に働く遺伝子の働きを促進し、逆に老化に伴って働く遺伝子を抑制する遺伝子操作の手法である。
このiPaDをアルツハイマー病モデルマウスの脳(海馬)に導入したところ、神経幹細胞が枯渇することなく、長期間にわたって新しい神経細胞が持続的に作られるようになった。研究グループは「iPaDにより未成熟な神経細胞が対照群より有意に増加し、効果が長期間持続することが示された」と説明している。
アミロイドβの蓄積が約50%減少
しかも、神経細胞が新しく生み出されるようになっただけでなく、記憶障害の引き金となる脳内のアミロイドβの蓄積も約50%減少していることが確認された。さらに、迷路を使った実験でマウスの空間記憶や学習能力を評価したところ、目的の場所へより早く短い距離でたどり着けるようになり、認知機能に改善が見られた。
研究グループは「iPaD導入12週後、海馬のアミロイドβプラーク面積は対照群と比べて約50%減少した」と報告している。また「迷路試験でiPaD群のマウスは対照群より早く短い経路でゴールに到達し、空間記憶と学習能力の改善が確認された」としている。
Prkag2遺伝子の抑制が重要
研究グループがこれらの効果の理由をさらに詳しく調べたところ、iPaDを導入したマウスの脳では「Prkag2」という遺伝子の働きが強力に抑制されていることが判明した。このPrkag2は、アルツハイマー病の悪化に関わることが示唆されている遺伝子である。実際にこのPrkag2の働きだけを直接抑制する実験を行っても、iPaDを用いた時と同様に新しい神経細胞が増え、アミロイドβが減少することが確認された。
研究グループは「Prkag2の働きを直接抑制すると、複数の補償遺伝子の中で最も強く神経新生を増やし、アミロイドβプラーク面積も最も効果的に減少させた」と結論づけている。



