北九州の名物駅弁「かしわめし」で知られる老舗「東筑軒」が、9期連続の赤字経営から脱却すべく、新たな舵取りを始めている。2025年に社長に就任した山内氏は、かつて「資さんうどん」で約20年間、店長から役員まで務めた経験を持つ。彼が真っ先に取り組んだのは、味の再現だった。
「味が変わること」が一番の不安
山内社長は、資さんうどんでの事業譲渡を3、4回経験し、そのたびに社員や客が「味が変わること」に最も不安を感じるのを目の当たりにしてきた。「スタッフもお客様も一番嫌なのは、やっぱり『味が変わること』なんです」と語る。東筑軒でも同様に、まずは伝統の味を守ることに注力した。思い入れのあった資さんでは、親会社の変更により会社の方向性と自身の思いが乖離していくのを感じたという。
「0から」の立て直し
9期連続赤字という深刻な状況の中、山内社長は「せっかくチャンスをいただけるなら、自分が実践してみようって。お客様と目線を合わせて、お客様に還元する仕組みをもう1回自分が作り上げる」と決意。声をかけられてから半年間考え抜き、覚悟を決めたという。目指すのは、福岡のソウルフードとしての地位確立だ。
かしわめしはまだソウルフードではない
取材の終盤、山内社長は意外な言葉を漏らした。「かしわめしを、まだソウルフードとは呼べないんです」。折尾の代名詞とも言えるかしわめしだが、「運動会、お正月、法事――晴れの日にしか、使われていない。日常で食べるものに、なっていないんです」と指摘。もっと気軽に、毎日でも手が届く一杯にしたいと語る。現在、店でのかしわめしは一杯290円だが、かしわめし弁当の大は970円と高め。「地元の人から見れば、決して安くはない」とし、500円程度の小さめの弁当を開発中だ。
コンビニに勝つ「おにから」
山内社長は、メディアで「コンビニ弁当の普及で負けた」と書かれることに悔しさを感じ、「ならばコンビニに勝てばいい」と新商品を開発。それが、おにぎりと唐揚げが一つずつ入った200円の「おにから」だ。折尾駅構内で販売を開始すると好評で、午前中に売り切れることも多い。当初200個だった生産量は、数カ月で500個に増加した。「関西でも関東でも勝負できると思うんです。『おにから』で東筑軒の名と味を知ってもらって、店を出していく。絶対、おいしいんですから。世の中に広めたい」と意気込む。
雰囲気が明るくなった
社長交代後、社内の雰囲気も変化している。従業員からは「雰囲気が明るくなった」との声が聞かれる。山内社長は、赤字からの脱却だけでなく、かしわめしを日常的に愛されるソウルフードへと昇華させることを目指し、挑戦を続けている。



