「両さんみたいに生きてみたい」『こち亀』50年、秋本治さんが語る制作秘話
「両さんみたいに生きてみたい」『こち亀』50年、秋本治さんが語る制作秘話

『こちら葛飾区亀有公園前派出所』(通称・こち亀)が誕生から今年で50年を迎えた。作者の秋本治さん(73)は今も不定期掲載という形で両さんの物語を生み出している。『こち亀』の制作秘話、これまでの半生、これからの創作などについて、穏やかな語り口で語った。

アメリカンポリス構想から生まれた『こち亀』

――『こち亀』50年を迎えて、今の心境を教えてください。

まさかここまで続くとは想像もしていなかったですね。新人の頃は1年続くのが夢みたいなところがありましたから。

――『こち亀』はご自身にとってはデビュー作でもありますね。

最初はアメリカンポリスを主人公にする作品を構想していたのですが、満足な資料がなくて、子どもの頃から見慣れた日本の警察をモデルにしたんです。第1話は両さんが通行車両に発砲するなど、ハチャメチャな感じで、個人的に好きな回です。リアルな絵で描いたから、読者にインパクトがあったのではないでしょうか。

最新ガジェットと女性キャラクターの誕生秘話

――『こち亀』は下町の人情物語を盛り込みつつ、この50年で内容も多岐にわたって変化しました。100巻あたりからは、パソコンや携帯電話などの最新のガジェットの情報も登場しますね。

読者からは『とても勉強になりました』と手紙が届くこともありました。次のステップとして、そういう最新機器を説く話もいいかもねと思ったんです。当時は電子手帳が最先端だったんですよ。それで(両さんの上司で、機械オンチの)大原部長にわかりやすく描くようにして、不便なところをギャグにして。機械はどんどん新しくなって、1年たつと別なものになっているので、それが逆に漫画として残るから面白いんじゃないかという面もありました。

――『こち亀』といえば、同僚の麗子をはじめ、両津を取り巻く女性キャラクターも魅力のひとつです。同僚で、弓道の達人で京都美人の早矢、気っぷの良い纏などはどのような発想から生まれたのですか。

早矢は僕が元々京都が好きだったので、京都の女の子を描いてみたかったんです。纏はちょうど『こち亀』のアニメ映画ができるのに合わせて、本誌の方もちょっとパワーアップしようということで、新キャラを出すことになり考えました。纏は要するに両さんのライバルですね。とにかく両さんをへこますような強い女の子をだそうと思ったことから発想しました。実家がすし屋というのは後から考えて、徐々に作り上げていきました。

実は、僕は女の子を描くのが苦手だったんです。それが『こち亀』と並行して発表した不定期連載の『Mr.Clice』(ミスタークリス)の影響で、女性を描くのが楽しくなったんです。ドレスの描写など勉強になりましたね。読み切りで得た財産が『こち亀』にフィードバックして、返ってくるみたいな感じです。

200巻で一区切り、葛飾区での幼少期

――『こち亀』は200巻を節目に週刊連載は一区切りとなり、以降は不定期掲載となりました。

読み切りで他に描きたいものもたくさんあって、自分なりに計画を立てて、担当に伝えました。終了ではなくて、明るい感じでいったん締めくくることができたと思っています。

――ご自身も『こち亀』の舞台でもある東京都葛飾区生まれですね。

実家は映画館のすぐ隣で、子供の頃は東映まんがまつりなどの全盛期でした。「白蛇伝」や「太陽の王子 ホルスの大冒険」が心に残っています。中でも「ホルス」は何度も映画館に見に行きましたね。アニメのキャラクターってそんなに好きや嫌いになったことは一切ないのに、(ヒロインの)ヒルダがかわいそうでね。アニメというのは、こんなにも人間の感情に訴えるものなのかと、衝撃を受けました。映画館にスケッチブックを持っていって、画面を見て必死にスケッチをしたこともあります。

アニメーター時代の教訓と現代の両さん

――高校卒業後、アニメ制作会社のタツノコプロに入社されます。

アニメーターとして動画を描く仕事を約2年間しました。高校はデザイン科だったので、東京中から上手な人が集まってきました。それで驚いてたら、タツノコプロは、日本中からそんな人が集まってくるんです。しかも上手なだけじゃなくて、描くのが速いというのが第1条件です。僕はもう相手にならないし、これじゃあ邪魔しちゃうなというのもあって、漫画家を目指すようになりました。

――アニメーター時代に培ったもので、漫画家となった後も役立ったことはどんなことですか。

大勢で一つの作品を作るっていうのは、1人や好きな人同士が集まって作る作業と違うということです。例えば、時間を守る、朝は決まった時間に職場に来る、自分の受け場はちゃんと自分で仕事をするということですね。この横とのつながりを大切にする姿勢は、後にアシスタントを雇うようになって、大いに生きました。

――最近はSNSのおかげで作品をすぐにネット上に発表できるようになりました。漫画家を目指す人たちに伝えたいことはありますか。

描いていて楽しいことは楽しいことでいいんだけれども、例えば、こういうのを見せて驚かしたいとか、こういうキャラクターの人がいたら面白いだろうなとか、やはり読者のことを思って描くのが大切じゃないかなと思います。

――ドローンやAI(人工知能)などの近年の技術進歩をどのように感じられていますか。

世の中が加速度的に変わっていくんじゃないかなと感じます。最近、中国のロボットの走る速度が人を抜いたというニュースを見ました。それを見て、僕は面白いなと思ったんです。人間はそれを見て、こうしちゃいられない、機械に負けられない、人間がもっと速く走るためにはこうしなきゃ駄目だ、と勉強するじゃないですか。技術進歩を受けて、人間の側の向上につながればと思いますね。AIを使った無人タクシーなんかは、災害現場や過疎地域で上手に運用すれば、困った人の役に立つと思います。そういう面はどんどん発展させた方がいいんじゃないでしょうか。

――『こち亀』は最新刊の203巻が10月に発売されました。葛飾区亀有に「こち亀記念館」が開館し、来年は新作のテレビアニメ放映が予定されるなど、これからも『こち亀』の様々な動きがありそうですね。

記念館ができたおかげで、来てくれた人が原作を読み返してくれて、本当にありがたいことです。『こち亀』は僕にとっても大事な作品です。例えば、無人タクシーを両さんがどう考えるのか、僕自身も興味がありますね。現代を生きる両さんを、チャンスがあればどんどん描いていきたいです。

――秋本さんの几帳面さは両さんとは真逆に感じます。

僕からしたら許せないですよ(笑)。でも、あこがれなんですよね。ああいうふうに風来坊みたいに、ふらっと旅行に行ってきたいなと。時間の拘束もなく、もうお金をあるだけ使って、電車に乗ってどっか行っちゃうみたいな。両さんみたいに生きてみたい、お金がなくても何とかなるだろうと思うこともあります。50年描いてきて、だんだん僕も鍛えられて強くなりましたね。「もうこのネーム(下書き)は難しいけど、なんとかできるんじゃないの」みたいな(笑)。ちょっと両さんっぽさが移ってきた感じはありますね。両さんは僕にとって戦友じゃなくて、悪友なんです。