心理学者でミシガン大学教授のイーサン・クロス氏は、人間の精神の特筆すべき能力として「心の中でタイムトラベルする能力」を挙げる。この能力は、子供の頃の記憶を思い出したり、将来の休暇を想像するときなどに日常的に使われている。しかし、過去のネガティブな経験に囚われたり、未来の最悪のシナリオを想像して不安に苛まれることもある。そんなとき、クロス氏は「いま」に注意を集中するマインドフルネスを推奨する一方、さらに一歩進んだ方法として、過去や未来の自分から現在の自分を眺める視点の転換を提案する。
過去の自分から現在の自分を眺める
クロス氏は、過去の自分の視点に立つことで、現在の感情を客観視できると説明する。例えば、過去に同じような困難を経験した自分を思い出し、そのときの自分が現在の自分にどんなアドバイスをするかを想像する。これにより、現在の感情が一時的なものであると認識しやすくなり、心の負担が軽減されるという。
未来の自分から現在の自分を眺める
同様に、未来の自分の視点から現在の自分を眺めることも有効だ。クロス氏は、数年後の自分が現在の悩みをどう見るかを想像することで、問題の相対化が可能になると指摘する。未来の自分はおそらく、現在の不安をそれほど重大には捉えていないだろうという認識が、心を軽くする。
感情コントロールの科学的根拠
クロス氏の著書『Mood Shift(ムード・シフト)』では、こうしたテクニックが科学的に裏付けられていると述べている。同書は東洋経済新報社から出版され、感情をコントロールするための実践的なツールキットを提供している。クロス氏は「心のタイムトラベルは、感情を制御するための強力なツールであり、マインドフルネスと併用することで効果が高まる」と強調する。
実践のポイント
具体的な方法として、クロス氏は日記をつけることを勧める。過去の自分に手紙を書いたり、未来の自分から現在の自分へのメッセージを想像することで、視点の切り替えが習慣化される。また、瞑想の際に過去や未来の自分を思い浮かべることも有効だ。これらの実践を通じて、ネガティブな感情に振り回されない心の安定を得ることができるという。
クロス氏は最後に、感情コントロールは一朝一夕に身につくものではないが、継続的な練習によって誰でも向上させることが可能だと述べている。



