杉村春子賞を昨年受賞した新原泰佑が、寺山修司作のミュージカル「獅子 THE LION-BEAT」に沈黙のボクサー役で主演する。演劇実験室○天井桟敷を旗揚げする前の1965年、寺山がただ一度の公演のために書き下ろした作品だ。
夢破れたボクサー志望者が謎の男と契約
東京の下町にある印鑑屋で働く27歳の貞夫(新原)は、ボクサーになる夢はかなわなかったが、大のボクシングファン。ある日、現れた怪しげな謎の男と、言葉を失うことと引き換えにボクサーになる契約を結ぶ。勝ち続け名声を得る一方で様々なものを失った果てに、貞夫が選び取ったものとは――。
脚本を最初に読んだ時、「人間に親身になってくれる本だなと思った。エッジの利いた部分と、アングラ演劇に行き着くであろうにおいも感じた」と新原。印象深かったのが「敗者に向ける目の温かさ」だった。
寺山の市街劇に衝撃、ダンスとボクシングの融合
「寺山さんは試合の勝ち負けだけでなく、生きている上での小さな敗北にもしっかりフォーカスを当てている。そこを逃さず、大切に演じたいと思う」と語る。
作品に取りかかるにあたって時代背景、寺山についても調べた。衝撃を受けたのが、現実の場で演劇を発生させる寺山の「市街劇」だ。「あの時代にしてこのクリエイティブな力。彼の思考の中に飛び込みたくなる魅力を感じた。いま生きていても、最先端を突っ走っていたのでは。この年齢で寺山作品の一員になれたのは、とても光栄です」
初演時の貞夫役はダンサーが演じたという。4歳でダンスを始めた新原にとって、本領を発揮しやすい共通点だろう。「ト書きに『ここのボクシングはダンスで』と書かれていたりする。時代とともに進化するダンスの現代感も取り入れながら、自分のできる精いっぱいの身体表現をしたい。ダンス、ボクシング、演劇、歌を分けずに、全部を一気に見ている感覚の舞台になると思います」
公演情報と共演者
演出は杉原邦生。北香那、田中俊介、勝矢、さとうこうじ、岡田義徳、田口トモロヲ、橋本さとしほかが共演する。東京公演は20日まで、新宿のシアターミラノ座で上演中。