写真が語るアイヌの「いま」 宇井眞紀子氏の34年の軌跡を書評
写真が語るアイヌの「いま」 宇井眞紀子氏の34年

写真集『アイヌ、現代の肖像』(国書刊行会・3960円)は、写真家の宇井眞紀子氏が34年にわたりアイヌ民族のいまを見つめてきた軌跡をまとめた一冊だ。ページを開くと、無邪気に遊ぶ子供たちや無垢な寝顔、フチ(おばあさん)やエカシ(長老)たちの凜としたまなざし、伝承活動に参加し舞台に立つ若者の姿が収められている。

二風谷から始まった34年の取材

平成4年、著者が最初に取材で飛び込んだのは、北海道平取町二風谷に住むアイヌ女性のアシリレラさんだった。アシリレラさんの「大丈夫。必要ならば上手くいくし、上手く行かなかったら、必要がないということだよ」という包容力ある人柄に魅せられ、東京から小学1年生の娘を連れて通い詰めたという。

二風谷ダムの建設反対運動を取材しつつ、料理、刺繡、薬、アイヌ語を学び、儀礼、祭り、踊りにも積極的に参加した。一方で、自分は「和人」であるという「引っかかり」が常に心の片隅にあったと告白する。

アイヌの歴史と世界への広がり

アイヌは20世紀半ばまで、北海道、サハリン(樺太)、千島列島を主な生活圏としていた先住民族だ。だが明治政府は「開拓」の名のもとにアイヌを強制移住させ、言葉も文化も否定し、その継承に壊滅的な打撃を与えた。

取材は北海道から関東、関西、さらにタスマニア、米国の先住民保留地、ニュージーランドへと広がった。そのなかで常に軸足となったのは、著者の地元の東京だった。「アイヌ民族イコール北海道」ではない。関東にも数多くのアイヌが暮らしていることを知ったからだ。

等身大のアイヌを伝える試み

著者は等身大のアイヌの姿を伝えたいと『アイヌときどき日本人』に始まり、『アイヌ 100人のいま』を出版した。本書に登場する一人一人が、それぞれの立場で社会を動かしている。アイヌをめぐる時代の動きを敏感にとらえ、写真という媒体で発信する著者も、社会を動かす一人なのではないか。