紺碧のアビタシオン第34回、美貴子の心の空洞とスエの孤独
紺碧のアビタシオン第34回、美貴子の心の空洞とスエの孤独

就寝前のわずかな自由時間、同室の皆は歌を歌ったりトランプをしたりして思い思いの時間を楽しんでいた。その輪の中心には必ず美貴子がいたが、スエは部屋のすみで静かに本を読むのが常だった。

スエを輪に誘う美貴子

「いっしょに歌いましょう」「七並べしない?」などと美貴子が誘っても、スエは「私は音痴だから」「勉強に遅れてしまうから」と絶対に輪のなかに入ろうとしない。美貴子はスエのことを決して嫌いではなかったが、この人はいったい何が楽しくて生きているのか、と思わなくもなかった。

勉強することは確かに楽しい。先生にほめられたり、いい点数をとったりすれば、いい気持ちになる。女高師を四年で卒業して、どこかの地で先生になる。それが今を生きる女性にとってどれくらいすごいことなのかもわかる。でも、その先を考えると、美貴子の頭のなかは靄のようなものでつつまれてしまう。

心の穴に悩む美貴子

教師になって、その先は……。自分が恵まれた環境にいることは重々承知している。「女子として、最高の教育をあなたは受けているんですから」と母には幾度も言われた。だからもっと頑張りなさい、という意味で言われていることも理解している。

どの授業にも楽しいところはあり、たとえ難しいことがあっても、自分はそれを乗り越えていくことができる。けれど、新しい知識が自分のなかに降り積もっていっても、自分の心のどこかに大きな穴が空いていると感じてしまうのはなぜなのか。まわりの生徒は、そんな穴など抱えていないように美貴子には見えてしまう。どうして、そんなに勉強に一生懸命になれるの? スエやほかの生徒に聞いてみたかったが、その答えを知るのも怖いような気もした。

週末の安らぎと現実

それでも、先生に𠮟られて小さく気が塞いでも、週末に家に帰れば、本来の自分を取り戻すことができた。ふかふかのベッドに身を横たえれば、寄宿舎の煎餅布団が原因の腰の痛みも和らぐような気がした。掃除もこの家では自分がする必要はない。大連に住んでいたときと同じように、それは使用人の仕事だった。