紺碧のアビタシオン第28回:美貴子、女高師に合格し東京での新生活へ
紺碧のアビタシオン第28回:美貴子、女高師に合格

「生活の質を上げる……」という言葉で、美貴子は日本への修学旅行で見た一軒の家を思い出した。あの家に住む人々、特に家事を取り仕切る女性に寒い思いやつらい思いをしてほしくないという思いから、自分は女性がいる場所の質を上げる勉強がしたいのだと漠然と思い至る。それは砂浜で一粒光る小さな宝石のように、美貴子の心を明るく照らした。

母との二人三脚の勉強

その日から、母と二人三脚の勉強が始まった。母の指導は厳しく、毎日深夜近くまで続いた。美貴子が眠りそうになると、手に持った鉛筆を竹定規で叩かれ、手の甲が赤く腫れない日はなかった。

受験の日、美貴子は母と二人で東京の受験会場へ向かった。周りの女子が全員自分より優秀に見え、手がかすかに震えた。母は美貴子の手を取って「大丈夫。あなたは必ず受かります」と小さな声で言い、掌で背中をぽんと押した。

試験と合格

テスト用紙が配られると、緊張で文字や数字が頭に入ってこなかった。しかし、母の声が蘇り、美貴子は自分の掌で頰を叩いて「大丈夫。私は受かる」と心の中で唱え、問題を解いていった。ひとつ解くごとに心が落ち着き、試験が終わったときには体も心も疲れ果てていたが、「受からないかもしれないけれど、私はやるだけのことをやった」と思えた。大連に帰る時には、美貴子の心は充足感で満ちていた。

そして、美貴子は見事、女高師の試験に合格した。父も母も満足げで、母は部屋の隅で着物の袖でそっと涙を拭っていた。

東京での新生活

四月から家族四人で東京での暮らしが始まるが、美貴子だけは寄宿舎で生活することになった。多少の不安はあったが、母は「あなたが勉強だけに集中できるのなら何も問題はありません」と言い、「ただし、ほかのものに視線を向けないこと!」という小言も付け加えた。