右腕を失った男性のために、輪島の職人たちが技をつないだ。下地、塗り、研ぎ、沈金。一人では作れない輪島塗の仕事を受け渡し、黒と赤の漆をまとった義手カバーを完成させた。被災で仕事場が離れても途切れなかった職人のつながりが、「魅せる義手」に新しい姿を与えた。
「何じゃこれ」から始まった魅せる義手
岐阜県大垣市の谷脇誠さん(52)は、2021年9月、コンクリート再生工場でベルトコンベヤーに腕を巻き込まれ、右腕を失った。初めて渡された義手を見て「何じゃこれ」と感じたという。
義手は重さや見た目、片手でも生活できることなどを理由に使われなくなり、押し入れにしまわれることも多いと谷脇さんはいう。ならば、隠すためのものではなく、着けたくなるものにできないか。好きな色や柄を選び、周囲から「格好いいね」と声をかけられる義手がいいと考え、3Dプリンター製のカバーを使った「魅せる義手プロジェクト」の活動を続けてきた。
「輪島を全部、この一本に」
輪島の職人との出会いは今年4月だった。日本の甲冑を思わせる義手を作りたいと考えていた時、3Dプリンター製の義足カバーに輪島の職人が漆を施した作品を知った。その製作を取りまとめたのが、輪島塗の製造販売を手がける塗師屋の大藤清さん(65)だった。
初めて輪島の漆器を手に取った時、谷脇さんが心を動かされたのは、光沢や模様の美しさだけではなかった。「漆器に触れた瞬間、職人たちのつながりの中から生まれているものだと分かった」と話す。
新たな義手は、4枚のカバーで構成される。黒と赤を基調にし、肩の部分には翼を広げた鳳凰を施す。「輪島を全部、この一本に入れたかった」という谷脇さんが漆器を見ながら色や模様のイメージを伝え、細部は職人たちの感性に委ねた。