東京・新宿の老舗ジャズ喫茶「DUG」が2026年6月27日に閉店する。創業者でジャズ写真家の故・中平穂積さん(1936~2024年)と息子の中平塁さん(54歳)が65年にわたり運営し、新宿文化の変遷を店とともに見つめてきた。村上春樹さんの小説『ノルウェイの森』に登場し、タモリさん、寺山修司さん、中上健次さんら数々の文化人が愛した名店の足跡を、父と息子のエピソードとともに振り返る。
重厚な扉の先に広がるジャズの聖地
JR新宿駅からほど近い靖国通り沿い、大繁華街・歌舞伎町の向かい側、映画館「新宿ピカデリー」の真横という新宿文化の中心地にDUGはある。いかにも老舗らしい重厚な扉を押し開けて地下への階段を降りると、ジャズ好き、酒好きにはたまらないレトロで瀟洒な空間が広がる。
店の中には穂積さんが撮影したセロニアス・モンクやアート・ブレイキー、ジョン・コルトレーンなど、ジャズ・ジャイアンツの写真が所狭しと並ぶ。DUGでコーヒーや酒を飲み、話しているだけで「絵」になる。これこそ紛れもない名店であり、何度行っても憧れのジャズ喫茶そのものの姿だった。
筆者自身もよくDUGを訪れ、先代マスターの穂積さんと知り合ってからは店内でたびたび話すことがあった。穂積さんの話しぶりはどこか飄々としながらも、内に秘めたジャズへの情熱が迸っていた。特に自分が撮ったジャズミュージシャンの話となると、とにかく嬉しそうに話すのが印象的だった。
「日本ジャズ史に残る名店」が閉店の道を選んだ理由
DUGはこれまで移転や閉店の危機を乗り越えてきた。しかし今回の閉店は、中平塁さんが「父の遺志を尊重し、自分のライフスタイルの変化もあって決断した」と説明する。具体的な要因として、建物の老朽化や周辺の再開発、後継者問題などが挙げられるが、中平さんは「突然の閉店ではなく、あくまで自然な流れ」と語る。
DUGの歴史は1961年、穂積さんが新宿に開いた前身「DIG」に遡る。その後、現在の場所に移転し「DUG」として再出発。村上春樹やタモリらが通い詰めた「堅苦しくないジャズ喫茶」として、新宿のアングラカルチャーの発信地となった。
父から息子へ、受け継がれた思い
中平塁さんは、父・穂積さんを「マスター」と呼び続けた。その理由について、「経営者としての父を敬い、店の伝統を守るため」と語る。穂積さんは2024年に88歳で死去するまで、ジャズ写真家としても活動。DUGの壁に飾られた写真の数々は、彼が現役時代に撮影した貴重な作品だ。
閉店を惜しむ声は多く、SNSでは「思い出の詰まった店」「最後にもう一度行きたい」といった投稿が相次いでいる。中平さんは「65年間、多くのお客様に支えられてきたことに感謝している。最後の日まで、いつも通りのDUGでありたい」と語る。
DUGの閉店は、新宿の文化史における一つの時代の終わりを告げる。しかし、その足跡はジャズファンや文化人の記憶に永遠に刻まれるだろう。



