小説「紺碧のアビタシオン」第32回では、家事科に通う美貴子の寄宿舎での厳しい日常と、同室の秀才・平口スエとの交流が描かれる。
規則正しい寄宿生活
起床は朝の五時、授業は午前七時半から午後三時あるいは四時まで。夕食、入浴をはさんで、就寝までの午後七時から九時までが自習時間となっていた。
美貴子が属する家事科の勉強内容は多岐に及んだ。教育学、倫理哲学、心理学、動物学、植物学に栄養学、物理、外国語、音楽、体操……さらに卒業後、家事科の先生になるために必要な、修身教育、食物、栄養、調理、育児、染色、織物などなど……。
秀才たちに囲まれて
毎日のように授業には実習、実験が伴うので、提出物に忙しく、自習室の灯りが消されてしまったあとは、舎監の先生の目を盗んで、廊下の灯りで勉強をし、提出物を仕上げる生徒も少なくはなかった。
皆が皆、各地から集まった優秀な生徒で、美貴子もまた例外ではなく、日々、新しい知識を身につけてはいったが、優等生たちに囲まれて暮らしていると、時折、息が詰まることもあった。
平口スエとの出会い
学校の授業を終えて、寄宿舎に戻り、寝室である和室でだらしなく寝転んでいると、「まあ、美貴子さん、そんな格好をして!」と、同じ部屋で寝起きし、理科に通う同学年、平口スエから声が飛んだ。着古したような着物に、丸眼鏡をかけた彼女は、広島出身の理科一年で、一、二を争う秀才らしい、という噂は美貴子も耳にしていた。
「素敵なお洋服に皺がつくでしょう」そう言って美貴子を無理矢理立たせ、服についた埃を払おうとする。
オーダーメイドの洋服
美貴子はモダンな小花柄、ローウエストのワンピースを着ていた。美貴子の服はすべてオーダーメイドで作ってもらったものだった。
入学式、ほとんどの生徒が和装や女学校時代のセーラー服を身につけているなかで、ベルベットのモダンなツーピース、ワンストラップの革靴を履いた美貴子の存在はひときわ目立ち、その服装のすばらしさに皆が驚きの声をあげた。
「なんて素敵なんでしょう!」「これはいったいなんなの?」と物珍しさから、背中のファスナーに手をかけようとする者もいて、「あっ、それはちょっと……」と美貴子は慌てて声をあげた。