国の文化審議会は7月17日、大阪府吹田市の万博記念公園にある「EXPO'70パビリオン(旧鉄鋼館)」や「大阪日本民芸館」、国連館に出展された「平和の鐘」、「夢の池」、「大屋根モニュメント」の5件の建造物について、国登録有形文化財に指定するよう文部科学相に答申した。いずれも1970年(昭和45年)に開催された日本万国博覧会(大阪万博)の施設である。
「夢の池」と旧鉄鋼館の文化的価値
注目されるのが、万博記念公園を訪れる人々に憩いの場を提供している「夢の池」である。水盤のなかには、日系アメリカ人の彫刻家イサム・ノグチ氏が手がけた噴水装置が残る。「宇宙空間の夢」というコンセプトのもとでつくられたもので、それぞれ「宇宙船」「彗星」「星雲」「コロナ」などと名付けられている。万博当時は噴出される水流に照明が投影され、夜景を美しく彩っていたが、現在は噴水としての機能は失われている。
また、今回答申された建物のなかで、筆者は「EXPO'70パビリオン」に強い思い入れがある。鉄鋼館は「鉄の歌」を主題に掲げ、日本鉄鋼連盟が出展した企業館である。フランスを拠点に活躍した建築界の巨匠ル・コルビュジエ氏に師事し、モダニズム建築を日本に知らしめた建築家として知られる前川國男氏が設計を担当した。
革新的な音響空間と保存の経緯
パビリオンの中心部を「スペース・シアター」と命名されたホールが占めていた。壁面、天井、床下に1008個のスピーカーを配置し、独立制御によって音が空間内を自由自在に移動する革新的な音場を構築した。レーザー光線や照明と連動した演出のもと、音楽監督を務めた武満徹氏をはじめ、高橋悠治氏やヤニス・クセナキス氏など前衛的な作曲家が提供した最先端の電子音楽を聴くことができた。今でいう「メディアアート」の先駆けとなる実験的な音楽堂であった。
ホワイエ(ロビー)には、フランソワ・バシェ氏が兄のベルナール氏と協力して制作した17基のアート作品が設置されていた。たたいたり、さすったりすることで不思議な音を奏でる鉄製のアート作品で、「音響彫刻」と呼ばれるものだ。また、天井からは巨大なフーコーの振り子がつるされ、地球の自転を視認することができた。
保存活用への期待
鉄鋼館は当初から長期的な利用を見据えた恒久施設として設計された。ただ、万博閉幕後の用途がなかなか定まらなかった。2000年前後を思い返すと、鉄鋼館は主に公園で使用する備品の倉庫となっていた。ホール部分は雨漏りがひどい状況で、いずれ一定の改修が必要であるのは自明であった。また、日本の産業技術の歩みを伝える機械類が収められていた時期もある。大阪工業会などが提唱した産業技術史博物館に収めるべく寄贈されたものだが、ミュージアム化は実現しなかった。
筆者は万博記念公園の運営や将来構想の立案に関与するなかで、鉄鋼館の保存活用の必要性を強調した。ようやく2006年に策定された「万博記念公園将来ビジョン」において、鉄鋼館を改修したうえ、大阪万博を主題とする展示館として再整備する方針が示された。筆者は「鉄鋼館アドバイザー委員会」の委員長として、構想立案と展示の監修を担当した。
文化財の登録を契機に、老朽化が進む旧鉄鋼館や噴水機能を失った夢の池の改修が進むことが期待される。



