小学3年生の自己紹介カードに「おはよう日本」と書いた少年は、20歳になった。奈良県出身の下村英理さんは、幼少期から地方問題に関心を持ち、「神童」と呼ばれた。現在は東京大学に在学しながら、日本を3周し、著書の出版やNPO法人の理事を務めるなど、地方創生に積極的に取り組んでいる。
幼少期から地方問題に関心
下村さんは、周りの子どもが妖怪ウォッチに夢中になる中、日本の地方が抱える問題の輪郭をぼんやりと見つめていた。教師からは「東大に行かせたがられた」という。その関心は学力の早熟ではなく、社会への視野の広さにあった。
現在、下村さんは東京在住だが、奈良の地元で醸造された日本酒を東大の文化祭で販売するなど、都心でのPR活動を展開している。「東京の人とご飯に行って、1回で1人1万円とか使うのを見ると、この1万円が地方に流れたらどんなことになるだろう、と思うんです。今は逆に地方経済においては所得の流出が起こっているわけですから」と語る。
日本3周の経験を基に著書を出版
大学生になり、行動範囲はさらに広がった。下村さんはこれまで日本を計3周した。観光名所だけでなく、その土地のスーパーに立ち寄り、地元の人が普通に買っているものを眺めて回った。その経験を基に、2026年7月には著書『スーパーって観光地やねん』を上梓した。観光ガイドではなく、日常の中にこそその土地の顔があるという思想の書である。
奈良の地元では地域の高齢者と交流していたが、東京に来てそうした関わりが薄くなったため、老人ホームにボランティアで訪問する活動などを実施するNPO法人に入り、現在は理事を務めている。
会社を立ち上げ、地方創生を仕組み化
さらに最近は自身の会社も立ち上げた。下村さんは「究極の地方創生は移住である」と考えるが、移住は誰にでもできることではない。しかし「関係人口」やその他の方法で地域にお金を流す方法はいくらでもあるはずだ。教育、旅行、地域産品の販売など、それらを仕組み化し、地方に向かうお金の流れを作るのがこれからの仕事だと考えている。
「神童」という言葉は通常、学力の早熟を指すが、下村さんの場合、早熟だったのは学力ではなく、関心の座標軸だった。神童と呼ばれた子の行き先は、ときに日本一の大学の合格通知よりも、人口31人の集落で高齢者たちが「ありがとう」と笑う顔の中に現れる。下村英理という20歳の東大生は、そう静かに教えてくれる。



