大江健三郎の未発表小説発見 学生時代の大家が保管、現存最古の作品
大江健三郎の未発表小説発見 学生時代の大家が保管

大江健三郎の未発表小説が発見 学生時代の大家が保管していた貴重な原稿

ノーベル文学賞作家、大江健三郎(1935~2023)が文芸誌デビュー前に執筆した未発表の小説2編が発見された。東京大学文学部が2026年3月2日に発表したもので、後の作品に表れるモチーフが多く扱われており、大江文学の成り立ちを知るうえで極めて貴重な資料となっている。

現存最古の作品「暗い部屋からの旅行」

発見されたのは、400字詰め原稿用紙82枚からなる「暗い部屋からの旅行」と、同42枚の「旅への試み」の2編である。「暗い部屋からの旅行」は末尾に「一九五五・五・十九」と記されており、小説コンクールなどに応募してタイトルのみが分かるものを除けば、現存する大江の小説では最も古い作品となる。

この作品は3部構成の短編で、大学2年生の「僕」が考古学のR教授の招待を受けるところから物語が始まる。教授は周囲から類人猿扱いされ、人権侵害を受けていると訴える。その後、教授と入れ替わりに現れた女子学生は「ユマニスト党」が起こした事件に巻き込まれ、黒い帽子の男に追われていると語り、かくまってほしいと懇願する。「僕」は彼女と共同生活を始めるという展開だ。

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大江作品としては珍しく恋愛の要素が強く打ち出されており、「僕」の一人称で終始しながらも、第2部は教授の日記形式をとるなど、小説の語りに工夫がこらされている点が特徴的である。

習作とみられる「旅への試み」

もう一編の「旅への試み」は、足の不自由な少年が主人公といった多くの要素が、短編「他人の足」(「新潮」57年8月号掲載)と共通している。末尾に「一九五七・五」とあることから、同作の習作とみられる。大江は東京大学在学中の1957年、東大新聞に掲載された「奇妙な仕事」が評価され、文芸誌に「死者の奢り」を発表。翌1958年には「飼育」で芥川賞を受賞している。

学生時代の下宿大家が長年保管

これらの原稿は、大江が学生時代に暮らした東京都北区の下宿を営んでいた女性の自宅に長年保管されていた。女性は1963年のNHKのクイズ番組「私の秘密」に、ゆかりの人物として大江と共に出演したこともある。何らかの経緯で大江から譲り受けたものと推測され、貴重な資料が現代に蘇ることとなった。

発見された2編の小説は、2026年4月6日発売の文芸誌「群像」4月号に掲載される予定だ。大江文学の初期の創作過程を明らかにする資料として、文学界のみならず広く注目を集めそうである。

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