スモーキングルーム第165回:将校の幻影に揺れるホテル「皇帝の部屋」の謎
スモーキングルーム第165回:将校の幻影とホテルの謎 (08.03.2026)

スモーキングルーム第165回:将校の幻影とホテル「皇帝の部屋」の夜

千早茜による連載小説「スモーキングルーム」の第165回が公開された。物語は、あるホテルを舞台に、酔った将校の不可解な行動と、そこに潜む謎めいた存在を描き出す。

将校の叫びとフロントの困惑

「以前いた総支配人のことでしょうか。彼は三年も前にホテルを去っております」とフロント係が応じるも、将校は「いや、いる! 見ていた……あいつが……見て、いるんだ……」と繰り返し、カウンターに突っ伏す。金ボタンとフロント係は顔を見合わせ、事態の深刻さを悟る。部下を呼びに三階へ走ったドアマンは、二人の部下も酔って床に転がっているのを発見。仕方なく、金ボタンが将校の腰からベルトと拳銃を慎重に外し、ポーター二人がかりで将校を「皇帝の部屋」へ運び込んだ。

豪奢な部屋での静かな対話

豪奢な寝台に将校を横たえ、ポーターたちが去ると、金ボタンは空のデキャンタをひっくり返し、「ぜんぶ飲んだのか」とため息をつく。すると、「グラスに水を注いでおいたのだけどね。ペースが速くて」と、硝子の玉を転がすような声が響く。寝台前の金縁の全身鏡の裏から煙が立ち上り、黒いタキシードに蝶ネクタイを結んだ姿が現れる。精巧な木象嵌の床を音もたてずに歩み寄り、金ボタンの横をすり抜けて、いびきをかく将校を見下ろしながら、「視線に敏感だね。さすがは軍人だ」と呟く。

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幽霊か、それとも別の存在か

金ボタンが「見ていただけじゃないだろう」と問うと、煙の声は「洗面所に行った隙に水を注いだり、上着をハンガーにかけたりしただけだよ」と応じる。しかし、金ボタンは「そんなことしたら幽霊かと思うだろう。仔兎みたいに怯えていたぞ」と指摘。声をたてずに「いい気味だけどな」と笑いながら、煙の正体を探る。煙は静かに「幽霊じゃないよ。彼がここにいると勘違いしたのは」と続け、金ボタンは「針金」と口にしかけて、「そうだな」とだけ答える。二人は将校がこぼした酒を拭き、部屋を整え、夜の準備を済ませて「皇帝の部屋」を去っていった。

この回では、将校の心理的動揺と、ホテルに潜む謎の存在との微妙なやり取りが、緊迫した雰囲気を醸し出している。千早茜の繊細な筆致が、読者に深い余韻を残す物語を紡ぎだしている。

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