東京都、羽田エアポートライン、東急電鉄は7月17日、大田区内で「新空港線」の都市計画素案説明会を実施した。通称「蒲蒲線」として始まった計画は、2つの蒲田駅を結び、大田区の分断を解消する構想だった。後に「新空港線」へと発展し、羽田空港アクセスを担う路線として計画されている。
東急多摩川線の利用者からは、JR線との乗換えが不便になるとの指摘もあったが、これは池上線との連絡線を活用することで解消できるかもしれない。
「蒲蒲線」から「新空港線」へ
蒲田駅(東急電鉄・JR東日本)と京急蒲田駅(京急電鉄)は約800メートル離れており、乗換え駅とするには不便だった。そこで、大田区は2つの駅を鉄道で結ぶ構想を提唱。この構想は「蒲蒲線」として何度も話題になった。その後、東急東横線からの羽田空港アクセスについて東急電鉄が関心を示し、東急多摩川線を延伸する形に決まった。
説明会資料に掲載された平面図を見ると、東急多摩川線は環状8号線の蒲田側から地下へ降りていき、地下に設けられた蒲田駅に到着する。ここから先は「新空港線」として延長し、京急蒲田駅地下に到達する。
都市計画素案では、さらに新たな要素が明らかになった。「池上線連絡線新設」「蒲田駅留置施設」「大田区役所地下構造物不使用」「(仮称)蒲田新駅の構造」である。
東急多摩川線とJR線の乗換えは不便になる?
「池上線連絡線新設」では、東急多摩川線が矢口渡駅から蒲田方面へ向かう際、地下区間に入る手前で分岐した連絡線がそのまま地上を進み、池上線の蒲田駅(高架)へ向かう。おそらく現在の線路を生かし、池上線へ接続することになるだろう。いまも東急多摩川線と池上線を行き来する渡り線があるから、それを流用すると思われる。
この渡り線は、東急多摩川線の車両が雪が谷検車区を入出庫するためにある。現在、東急多摩川線と池上線の車両は雪が谷検車区を使用している。ちなみに、2000年に目黒線と東急多摩川線が分離される前の「目蒲線」時代、奥沢駅隣接の車庫(雪が谷検車区奥沢列車検査班)を使っていたが、路線を分離するにあたり、奥沢の車庫を目黒線の車両が使い、東急多摩川線の車両は池上線の雪が谷検車区へ移籍させることになった。
東急多摩川線と池上線の車両は共通運用となっており、雪が谷検車区の入出庫を兼ねた営業列車もある。たとえば池上線の雪が谷大塚発蒲田行として運転した後、蒲田駅で東急多摩川線の多摩川行に。その逆もある。将来、「新空港線」ができたとしても、東急多摩川線の車両が雪が谷検車区を使うとすれば、この連絡線は必要だろう。もっとも、運行頻度は減るし、線路用地の拡張も必要になるから、最低限の敷地を使った単線になる可能性もある。
説明会での「東急多摩川線の蒲田駅が地下に移ることで、東急多摩川線の利用者はJR線の乗り換えが不便になる」という意見については、連絡線の運用次第で解消する可能性がある。東急多摩川線方面から来た列車が、連絡線を通って池上線のホームに到着し、折り返して再び東急多摩川線に戻る運用も考えられる。そうなれば、現在のホームを使ってJR線との乗換えを維持できるかもしれない。
東急多摩川線は現在、朝ラッシュ時に6分間隔、日中に7分間隔で運転している。高架の蒲田駅と地下の蒲田駅を使い分ける運用なども考えられるが、実際の運転方法は今後の検討課題となるだろう。もちろん池上線との運転調整という課題もある。いまは都市計画素案の段階であり、今後の検討で東急多摩川線利用者の乗換え利便性をどこまで確保できるか注目される。
蒲田駅に留置施設を設ける意味は
「蒲田駅留置施設」も筆者には意外だった。駅と路線を地下化する場合、地上部は公園などに利活用する事例が多い。しかし計画素案を見ると、東急多摩川線の蒲田駅は現在の高架駅を撤去し、留置線を設置するとしている。都市計画素案の図では規模感がわかりにくいものの、東急多摩川線の3両編成も、東横線直通の8両編成も対応できそうに見える。
SNS等では、以前から東急東横線・目黒線の車両基地である元住吉検車区の容量不足が指摘されていた。東横線と相互直通運転を行うみなとみらい線は、元町・中華街駅の地下トンネルを延伸する形で、10両編成4本分の留置線を計画している。夜間に車庫へ戻らず、駅に滞泊して始発列車とする運用もあり、一例として目黒線の奥沢駅でも夜間滞泊が行われている。早朝・深夜の回送列車を減らす意味もあり、騒音対策にもなっている。
東横線から「新空港線」への直通運転を見据える上でも、蒲田駅に留置施設を設ける意味は大きいかもしれない。ただし、留置線の終端はどこになるのか。概略図を見ると、現在の東急蒲田駅の手前で終わっている。ここからJR蒲田駅寄りの部分は高架下に店舗や東急ブラザビル駐車場があり、高架下の道路は蒲田駅周辺の南北を結ぶ経路として活用されている。
大田区役所の地下に「蒲蒲線用の空間」があった!?
「新空港線」は地下の蒲田駅からシールド工法で東へ進む。JR線の下を通り抜け、大田区役所の北側の地下を通る。この大田区役所の建物は、建設当時から「地下に蒲蒲線用の空間が確保されている」という噂があった。しかし、計画素案の縦断面図を確認すると、大田区役所の躯体の下をシールドトンネルで通り抜けるように見える。
大田区役所の建物があるところは、国鉄時代に貨物ヤードがあった。国鉄の分割民営化にともない、国鉄清算事業団が不動産業を営む桃源社に約656億円で売却している。桃源社は約200億円を投じ、1992年に商業ビルを建設した。このとき、大田区が「蒲蒲線」地下駅用地を確保するよう求めたというが、真偽は不明。その後、バブル崩壊の影響で桃源社が倒産し、放置されていたところを1996年に大田区が約172億円で買い取り、本庁舎を移転させた。
大田区役所は地上11階・地下4階の建物で、地下1・2階は駐車場となっており、地下4階に地域冷暖房施設が入る。一方で、地下3階の説明が見当たらないことから、「蒲蒲線用トンネル説」の根拠とされてきた。しかし、朝日新聞の1998年4月15日付「蒲田駅から1分の新庁舎、来月6日に業務開始 大田区役所」で確認すると、「地下3階分を駐車場にした」とあった。
計画素案では、「新空港線」は躯体の下、つまり地下4階より下を通っている。地下3階については、現在の利用状況も含めて確認が必要かもしれない。蒲田駅の東西方向から動線を増やすため、コンコースや東西連絡用通路などで活用してほしいところだが、その場合は地下3階から地上への動線も工夫する必要がある。
「(仮称)蒲田新駅」は「1面2線の切り欠き型」に
大田区役所北側から「(仮称)蒲田新駅」へは、複合施設「ニッセイアロマスクエア」の北側地下を通る。徒歩連絡でも蒲田駅と京急蒲田駅を結ぶ最短ルートとなっている。「(仮称)蒲田新駅」は京急蒲田駅の南側に接する位置にできる。将来、大鳥居方面へ延伸するとなれば、ここから東へ進むだろう。その先に国道15号が環状8号線を潜り抜けるためのアンダーパスがあるので、地表から少し深い位置に駅ができると思われる。その先はホビーイベントでも知られる「大田区産業プラザ PIO」の南側地下を進み、環状8号線の下を進む可能性がある。
「(仮称)蒲田新駅」は東横線から直通する列車の長い編成と、東急多摩川線の短い編成が発着する。計画素案では、「3両編成の車両のみ停車するホームと、8両編成と3両編成の両方の車両が停車可能なホームを、縦列に配置する必要があります。そのため、1面2線の切り欠き型のホームとする計画です」とある。
筆者が観察した限りではあるが、島式ホームは単式ホームと比べて1.5~2倍の幅がある。切り欠き型とするならば、複線の線路幅を考慮して、8両編成対応のホームはもっと幅広になるかもしれない。京急蒲田駅も切り欠き型ホームを採用しているが、京急線で島式ホーム1面2線を採用している他の駅と比べてもかなり幅広な印象がある。
切り欠き型の3両編成対応ホームは折返しとなるため、将来の延伸時に3両編成対応部分の扱いが課題になる可能性もある。具体的にどのような方法で折り返すかについても、今後の検討が必要になるだろう。
下丸子駅のホームは8両編成対応、高架・地下の両案検討
「新空港線」の整備は矢口渡駅から蒲田駅までの東急多摩川線地下化工事と、蒲田駅から「(仮称)蒲田新駅」までの新線整備に分かれる。上下分離方式を採用し、どちらの区間も整備主体は羽田エアポートライン、営業主体は東急電鉄となっている。羽田エアポートラインは大田区が61%、東急電鉄が39%を出資する第三セクターである。
東急多摩川線の列車は18メートル級・3両編成の車両で運転される。目蒲線だった時代は4両編成で運転され、鵜の木駅のみドアカットで対応していた。一方、東横線直通列車は20メートル級・8両編成の車両を使用するため、20メートル級の車両が通過できるよう対応する工事が必要になる。東急多摩川線内において、東横線直通列車の停車駅は下丸子駅と蒲田駅のみを想定している。下丸子駅周辺はキヤノン本社などがあり、東急多摩川線では蒲田駅に次いで利用者が多い。
大田区は2026年3月、「下丸子駅周辺地区都市基盤整備方針」を策定した。「新空港線」と歩調を合わせた取組みのようで、下丸子駅周辺の連続立体交事業を中心に、「駅前拠点ゾーン」「生活交流ゾーン」「住工共生ゾーン」をドーナツ状に整備していく。ゾーン間の移動を円滑にするためにも、連続立体交差による踏切除却が必要ととらえている。
連続立体交差は地下案と高架案を検討しており、どちらもホームは8両編成対応。ただし、速達列車を待避する設備については言及されていない。駅周辺の用地条件によっては、待避設備を設ける余地があるかもしれない。将来の輸送力増強を考えるなら、待避設備を設けることも一案となりうる。現在の東急多摩川線は短編成・高頻度運転で輸送量を確保しているが、ここに速達列車を入れるとなれば、追い越し設備が欲しいところだろう。
蒲田駅と京急蒲田駅を結びたいという大田区の構想は、渋谷・新宿・池袋方面と羽田空港を結ぶプロジェクトに発展した。それが東京都の支援を受ける「近道」だったからともいえる。大田区には、羽田空港アクセスだけでなく、東急多摩川線沿線の利便性にも配慮した説明と調整が求められる。大田区における東西交通の円滑化を図るとともに、東急多摩川線沿線の利便性にも配慮しながら、地域への説明と調整を進め、素案の実現につなげてほしい。



