富士吉田市とUber Japanは9月4日、「オーバーツーリズム対策に関する包括連携協定」の締結式を富士吉田市役所で行った。グローバル展開されているUberの特徴を活かし、アプリ上の機能を利用して「交通混雑の緩和」と「観光マナーの啓発」を促す。
富士吉田市が抱えるオーバーツーリズムの課題
富士山の北側に位置し、市内のどこからでも富士の眺望を望める高原都市、富士吉田市。富士山の玄関口として世界的に知られ、富士信仰の拠点の一つである北口本宮冨士浅間神社や数多くの富士山ビュースポット、昭和レトロな街並みなど、多くの観光資源を有している。
とりわけ、新倉山浅間公園から望む五重塔と富士山の風景や、本町二丁目交差点周辺のレトロな街並みは、海外からの観光客にも広く知られる存在となった。その魅力は、地域経済の活性化に大きく寄与している。
一方、SNSの普及により、特定の観光スポットや時間帯に来訪者が集中することで発生する交通混雑、生活環境への影響、観光マナーの悪化といった、いわゆる「オーバーツーリズム」が大きな課題となっている。
特に、新倉山浅間公園周辺や下吉田エリアにおいては、道路渋滞や違法駐車、私有地への立ち入り、ごみの投棄等が発生しており、地域住民の生活環境への悪影響が大きいという。同市は2023年10月から2025年5月にかけ、自動運転EVバス運行の実証実験なども行っており、対策は急務と言える。
市長の危機感とこれまでの対策
富士吉田市長の堀内茂氏は、こうした現状について強い危機感を抱いていると語る。市はこれまで、駐車場の再整備や増設、公共トイレの設置、スマートごみ箱の導入などの対策を実施してきたほか、2025年4月には長年開催してきた「新倉山浅間公園桜まつり」を中止する判断も行ったという。
堀内氏は、「市民のみなさまが安心して日常生活を過ごし、その上で訪れるみなさまを温かくお迎えできる、住民と観光客の双方が幸せを感じられる街を作り上げていきたいと思います」と、その思いを語った。
乗車場所を限定し交通混雑を緩和
そんなオーバーツーリズム対策の一環となるのが、今回の「オーバーツーリズム対策に関する包括連携協定」。Uber Japanにとって国内初であり、世界的にも珍しい取り組みだ。
Uber Japanは2025年9月より富士吉田市で「Uber Taxi」のサービスを開始した。この1年間で市内での乗車回数は3倍以上に増加し、国内外の多くのユーザーが利用しているという。一方で富士吉田市とはオーバーツーリズムの問題に対する対話を継続的に重ねてきた。
Uber Japanの代表を務める山中志郎氏は、「日本を代表する観光地である富士吉田市と一緒にできないか」という思いから、今回の取り組みが始まったと述べた。
協定の柱となるのは「交通混雑の緩和」と「観光マナーの啓発」の2つだ。
まず交通混雑対策として、Uberアプリ上で特定エリアの乗車場所を限定。新倉山浅間公園や本町通りなど混雑が発生しやすい場所では、ユーザーがアプリを開くと、安全な指定乗車スポットへ自動的に誘導される仕組みを導入する。
混雑エリアの中心部を乗車地点として指定しようとしても、アプリ側で利用できないよう設定されており、周辺の指定スポットへ案内される。乗車拠点は下吉田エリアや新倉山浅間公園周辺、本町通り周辺など計4カ所を設定。混雑の激しいエリアでの車両滞留を抑え、人と車の流れを分散させる狙いがある。
山中氏は、「観光客の利便性と、地域の皆様の安全で快適な暮らしの両立を目指したいと思います」と説明した。
国外ユーザーへのマナー啓発と今後の展開
もう一つの取り組みは、海外観光客へのマナー啓発となる。観光地で発生する課題の中には、地域ルールが十分に伝わらないことによるものも少なくない。そこでUber Japanが提案したのが、グローバル展開している自社プラットフォーム「Uber」の活用だ。
Uberは世界70カ国以上で展開されているサービスであり、約50言語に対応している。日本国内でも年間を通じて約200の国・地域から訪れた利用者がアプリを利用しているという。
今回の協定では、富士吉田市を訪れた利用者に対し、アプリ内バナーやメール、プッシュ通知などを通じて観光マナーや地域ルールを配信する。例えばバナーをタッチすると「道路に入って写真を撮らないでください」「ごみはちゃんと持ち帰ってください」「地域の住民の皆様にご配慮をお願いします」といった具体的なメッセージが、利用者の設定言語で表示される仕組みだ。
富士吉田市も「我々では6~10カ国語程度の言語対応が限界であるのに対し、Uberを活用することで50言語で情報発信が可能になる」と評価する。なお、これらは日本のUberユーザーには配信されず、国外ユーザーにのみ行われる。日本のルールを熟知している国内ユーザーのUXを邪魔しないよう配慮したものだろう。
Uberは、2025年12月に47都道府県へのサービス展開を完了した。もちろん細かい地域を見ていけばまだまだ対応できていないエリアも多いが、それでも全国のサービスを実現しているという意義は大きい。サービスの拡大が一段落したUberは、社会課題解決への貢献を一つの軸として据えている。
山中氏は、今後の展望として「データの収集・分析を行いながら、乗車に利用していただくだけのアプリにとどまらず、地域課題の解決に貢献するプラットフォームとして進化させ、日本全国に展開していきたい」と語る。
オーバーツーリズムは日本各地の観光地で大きな課題となっている。観光客の増加は地域経済に恩恵をもたらす一方で、住民生活との摩擦を生み出す側面もある。今回の協定は、ITと移動データを活用しながら、その両立を目指そうとする試みと言えるだろう。
富士吉田市とUber Japanは、まず2026年9月から12月中旬、さらに2027年3月から5月の観光シーズンに施策を実施する予定だが、市や同社はその後も継続的な展開を見据えている。世界的な観光地である富士山の麓で始まる今回の挑戦は、観光振興と住民生活の共存を模索する全国の自治体にとっても意味のあるモデルケースとなりそうだ。



