「正論」だけでは人は動かない。職場でよく見られる「ロジカル・ハラスメント(ロジハラ)」は、論理的に正しい指摘がかえって部下を追い詰める現象だ。日本メンタルアップ支援機構の大野萌子代表理事は、自衛隊員も学ぶメンタルチューニングの手法を応用し、ロジハラを防ぐための具体的な対策を提唱する。
ロジハラの悪循環とは
ロジハラの怖さは、反論できない構造が生まれることにある。以下のような悪循環が繰り返される。
- 言っていることは正しい
- だから言い返せない
- でも苦しい
- しかし苦しいと言うと「感情論」と切り捨てられる
- 結果、何も言えなくなる
この悪循環が続くと、部下は意見を出せなくなり、萎縮し、最終的には心が折れてしまう。大野氏は「論理的な上司ほど、無自覚にロジハラをしているケースが多い」と指摘する。
正論をロジハラにしないための4つのポイント
ロジハラを防ぐ鍵は、正論の使い方にある。大野氏は「正論を封印するのではなく、適切に使えば相手を支える強力なツールになる」と述べ、以下の4つのポイントを挙げる。
- 相手の状況を確認する:「今どんな状況?」「他に抱えている業務はある?」
- 感情を受け止める:「大変だったね」「悔しい気持ちもあるよね」
- 選択肢を提示する:「A案とB案があるけれど、どう思う?」
- 合意形成のプロセスを丁寧にする:「この方向で進めて大丈夫?」「不安な点はある?」
これらを挟むだけで、正論は「命令ではなく協働」に変わる。大野氏は「正論は支援にも攻撃にもなる。相手の状況を無視して使えば攻撃になり、相手の理解を助けるために使えば支援になる」と強調する。
事例で学ぶ正しい指導
若手社員Aさん(入社3年目)は、上司から「このデータの分析が甘い。もっと深く調べるべきだ」と正論で指摘された。確かにその通りだが、Aさんはすでに他の業務で手一杯だった。上司は状況を確認せず、さらに「なぜできないのか」と追及。Aさんは「できない自分が悪い」と自己否定に陥り、動悸や不眠に悩まされるようになった。
一方、中堅社員Bさん(入社8年目)は、プロジェクトの遅れを上司に報告したところ、「スケジュール管理は基本だ」と正論で叱責された。Bさんはチームメンバーの異動で調整に苦慮していたが、上司は「言い訳は聞きたくない」と一蹴。Bさんは以降、上司と話すだけで緊張し、積極的な提案ができなくなった。
これらの事例から、大野氏は「正論の前後に相手への配慮を挟むことが重要」と説く。例えば、Aさんの上司は「今、他にどんな業務を抱えている?」と確認し、Bさんの上司は「チームの状況はどうなっている?」と聞くだけで、コミュニケーションは大きく改善する。
心理的安全性を高める組織へ
ビジネスの場で因果関係を示して説明することは大切だが、論理だけでは人は動かない。人が動くのは、理解され、尊重され、安心できるときだ。大野氏は「職場のコミュニケーションは、どちらが正しいのかをジャッジする場でも、正しさの競争でもない。互いが働きやすく、力を発揮できる環境をつくるためのものだ」と述べる。
正論を武器にするのではなく、わかり合うための手段として使える組織こそ、心理的安全性が高く、成果を生み出すチームへと成長していく。メンタルチューニングの手法を取り入れ、ロジハラを防ぐことで、健全な職場環境を築くことが求められる。



