「LGBTQ+」という言葉の認知率は76.7%に達する一方、職場でカミングアウトしている人は約5%にとどまることが、dentsu Japanが実施した「LGBTQ+調査2026」で明らかになった。同社DEIオフィスの飯沼瑶子氏と岸本かほり氏が、認知と理解の間に存在する大きなギャップや、高齢当事者が直面する課題について解説する。
認知と理解のギャップが浮き彫りに
岸本氏は「認知と理解のギャップ」を今回の調査で最も印象的な点として挙げる。認知率が高い一方で、当事者が抱える問題や生きづらさへの理解は十分に進んでおらず、その差は顕著だ。調査では、「学校でLGBTQ+について教えるべき」と考える人が8割を超えたが、実際に学校教育で学んだ経験がある人は1割未満。企業研修を受けた人には理解や行動の変化が見られるが、研修受講経験者自体はまだ少数にとどまる。
さらに、職場で「当事者であることは仕事や評価に影響しない」と考える非当事者が多い一方、当事者は「自分が当事者であると知られてしまう」不安から、常に周囲の視線を意識して行動しなければならない実態がある。岸本氏は「評価には関係ないと思われていても、当事者は常に『知られたらどう思われるだろう』という不安を抱えている。そのために本来の自分を出せず、能力を発揮しきれない状況も起きている」と指摘する。
高齢LGBTQ+当事者の課題
岸本氏がもう一つ重要なテーマとして挙げたのが、高齢のLGBTQ+当事者に関する調査結果だ。医療現場でパートナーが説明を受けられない、介護施設で自分らしく過ごせない、相続や葬儀でパートナーの存在が考慮されない――。こうした問題は、高齢化が進む日本で今後さらに深刻になるとみられる。特に高齢世代は、カミングアウトが難しい時代を生きてきたため、当事者であることを周囲に明かせないまま人生を送ってきた人も少なくない。
「認知が広がっているがゆえに、『もう十分理解されている』と思われてしまうことが新たな問題になっている。だからこそ、教育や職場、医療、介護など、当事者が困難を感じる人生のさまざまな場面を知り、各領域で何ができるのかを考え続ける必要がある」と岸本氏は強調する。
dentsu JapanのDEIへの取り組み
dentsu Japanは社内外で多様なDEI施策を展開している。社内向けには、人権研修に加え「DEIパーク」と呼ばれるアクション創出プログラムを実施。参加者が自組織の課題を考え、具体的な改善策を検討する仕組みを整えているほか、当事者やアライ(支援者)のコミュニティ運営、相談窓口の設置、プライド月間に合わせた取り組みも継続的に行っている。
社外向けには、LGBTQ+に関わる広告表現のヒントをまとめたガイドブック『広告とLGBTQ+』や、支援のための具体的なアクションをまとめた『LGBTQ+について知る・考える・行動する アライアクションガイド2025-2026』をデジタルブックとして無償公開。さらに、Tokyo Prideには10年連続で出展し、2026年のTokyo Prideではdentsu Japan各社から44名の経営層を含む延べ約140人が参加し、社長自らブースボランティアに携わった。
「人財」を活かすための環境整備
飯沼氏は「無形商材を扱うdentsu Japanにとって、企業の最大の価値は『人財』。自分らしく働けない環境では、その人の能力は十分に発揮されない。多様な人財が持つ力を最大限に引き出すことが、企業の成長にもつながる」と語る。また、同社傘下の数社では同性パートナーや事実婚のパートナーを配偶者として認める制度を導入。トランスジェンダーであることを公表し、戸籍上の氏名変更を行った社員の事例をきっかけに、人事システムや社員証などの運用を見直してきたという。
飯沼氏は「当事者のサポートや制度見直しに尽力した社内関係者からは、『誰かが最初の一歩を踏み出すことで、それまで壁だった場所に扉ができる。その扉を次の人が通れるようになることが大切だ』という声があった」と紹介。制度が利用されることだけでなく、存在していること自体が安心感につながると説明し、今後も環境整備と制度普及を進めたい考えだ。
LGBTQ+に対するフェーズは、認知から理解へ、そして理解から具体的な行動へと進むタイミングにある。dentsu Japanが続けてきた調査や取り組みは、そのための第一歩となるだろう。



