国土交通省 海事局 造船課長を務める今井新氏は、10月6日に開催されたシンポジウムで「これまでにない大規模な予算を用意し、造船業の再生・強化を進めていく」と述べた。日本の造船業は、かつて世界トップの建造量を誇ったが、韓国や中国の台頭によりシェアが低下。人手不足も深刻化している。
2035年に建造量倍増へ 政府が技術開発を支援
政府は「造船業再生ロードマップ」をまとめ、2035年に国内の建造量を倍増させる目標を掲げた。今後10年間で官民合わせて1兆円を超える投資を実施し、競争力の強化を目指す。その復権を担うのが「フィジカルAI」だ。
政府は造船業の再生に向け、技術開発への支援を進める。その1つが研究開発の成果を社会実装や事業化につなげる国のプログラム「BRIDGE」事業だ。造船分野には150億円の予算が配分され、AIやロボティクスを活用した技術開発を進める。
今井氏は、造船業について「海上輸送に不可欠な船を供給する産業として、日本の経済を支える重要な柱」と説明する。海上輸送が途切れれば、日本の経済や人々の生活にも大きな影響が及ぶ。
造船現場で求められる「フィジカルAI」
熟練技術者の減少が進む中、限られた人員でより多くの船を建造できるよう、現場の生産性を高める必要がある。そこで期待されているのが、AIやロボットの活用だ。
近年、生成AIが急速に普及し、文書作成や情報整理など、さまざまな業務で活用されている。一方、造船現場では、画面上で情報を処理するAIだけでは対応しきれない。海上・港湾・航空技術研究所 海上技術安全研究所の平田晃一所長は「実際にロボットや機械などを動かして作業させる、いわゆるフィジカルAIが必要とされている」と説明する。
フィジカルAIと従来のロボットの違いは、周囲の状況を認識し、それに応じて動作を変えられる点にある。例えば、造船現場で周囲の状況に合わせて動きながら溶接するロボットなどがフィジカルAIの活用例だ。
造船現場では、狭い場所や暑さなど、作業者にとって厳しい環境が少なくない。高所や狭い場所での作業もある。溶接などには熟練者の経験や技術が求められる。こうした作業をロボットが担えるようになれば、人手不足の解消につながる。