思春期女子の自殺急増、SNSの負の側面が影響か 孤独感とやせ願望がリスク
思春期女子の自殺急増、SNSの負の側面が影響か 孤独感とやせ願望がリスク

世界共通で女性よりも男性に多い自殺。日本でも男性の自殺者数は女性の2倍を超える。しかし今、日本の子供に異変が起きている。近年女子の自殺が急増し、ついには男子を上回ったのだ。なぜなのか。その原因にSNSの〝負の側面〟が影響していることを示唆する論文が9月、権威ある国際学術誌に掲載された。

女子自殺者、16歳からメンタル悪化も

厚生労働省によると、小中高生の自殺者数は男子が女子の2倍前後で推移してきたが、女子中高生の自殺急増を受け、令和6年には女子が290人、男子が239人と初めて逆転。7年も女子が上回った。10代女子の自殺死亡率(人口10万人当たりの自殺者数)はもともと日本が先進7カ国(G7)の中で突出して高かったが、状況はさらに深刻になっている。

自殺につながるのはメンタルヘルス(心の健康)の悪化だ。現代社会の何が特に思春期の女子のメンタルヘルスを悪化させるのか-。精神科医で国立精神・神経医療研究センターの成田瑞室長らのグループは、この要因を特定するため、研究目的で子供を追跡調査する「東京ティーンコホート」に参加する女子1487人、男子1684人の12・14・16歳時点のアンケート回答を分析した。

結果をみると、12歳時点ではメンタルヘルスの男女差は小さかった。だが16歳になると、抑鬱症状が女子の15.9%、男子の8.2%、希死念慮が女子の29.8%、男子の18.1%にみられ、女子の悪化が目立つことがデータ上も確認できた。

言語化…浮かんできた因子

では、この男女差が生まれる理由は何か。それを突き止めるには、候補となる因子を選び、影響を検証する必要がある。

まずグループが行ったのは、当事者の若者とともに、若者らが普段感じている「しんどさ」を言語化していくことだった。グループから外されるのが怖い▽周囲に合わせ続けるのがしんどい▽本音を話せる友人が少ない▽「女性はやせている方がいい」というプレッシャーがある▽SNSで体形を比較してしまう-。日英の計約20人が参加したワークショップではこうした指摘が相次ぎ、グループは「孤独感」と「やせ願望」を分析対象の因子に選んだ。

その上で因果媒介分析という統計手法を用いて計算すると、16歳における抑鬱症状の男女差の34.7%、希死念慮の男女差の46.3%を、この2つの因子が関わるメカニズムで説明できることが分かったのだ。成田さんによると、この統計手法では10~20%ほどの数字でも十分意味があるといい、50%に迫るのは「驚くほどの大きさ。孤独感とやせ願望がもたらす影響の深刻さが分かる」と強調する。

若者らが挙げた「しんどさ」を踏まえれば、孤独感とやせ願望はSNS利用と密接に関係している。女子の自殺にSNS利用は少なくない影響を与えている-。研究結果は、こんな状況を示唆しているともいえる。成田さんは「若者が研究過程に参加することで、当事者自身が『重要だ』と思っていることに的確に焦点を当てることができた」と話し、国や自治体などは孤独感などを減らすための支援を行ってほしい、と訴える。論文は9月15日、英学術誌「Nature Human Behaviour」にオンライン掲載された。

「やせたい」の裏にある本心は…

「子供と関わる中で実感していたことに研究の裏付けができた」

フリースクールの運営や子供らの居場所づくりなどに取り組む、NPO法人「スクート」(長崎県大村市)の内海博文・代表理事は、今回の研究結果をこう受け止める。中でも注目したのは、メンタルヘルスと結びつけて理解しにくい「やせ願望」についてだ。

内海さんによると、女子には、友人グループ内で互いのSNS投稿をチェックし、即座に反応することによって、「仲間」であることを確認し合う傾向がある。「やせ」を含む外見への評価が大きな価値基準となるSNS上では、スタイルの良さや華やかさなどが「いいね」という承認を集める。SNS上の高すぎる承認水準が女子にとっての「普通」になり、むしろ、ついていけなければ「仲間から外される」「自分という存在が認められない」といった最低ラインになっているという。つまり「やせたい」という言葉は「普通でいたい」という恐怖に近い切迫感の裏返しなのだ。

内海さんは子供と接する経験を踏まえ、SNSが女子のやせ願望を膨らませ、メンタルヘルスの悪化を加速させる構図をこのようにとらえている。メンタルヘルスを守るためにはSNS規制のあり方も議論されるべきだが、大人たちがまずできることは、身近な子供の話を最後まで聞くという実績を積み重ね、子供にとって「相談しやすい存在」になることだという。「現実の中で『ありのままの自分が認められている』と感じる機会が増えれば、SNS上の承認ばかりを求めなくてもよくなる」。それがSNS社会の〝処方箋〟になり得ると、内海さんは話す。