夏休みは受験生にとって「天王山」とされるが、暗記ものの学習では息を吐く後半にタイミングを合わせると効果的かもしれない――。兵庫医科大学、関西学院大学、生理学研究所(愛知県岡崎市)などの研究チームが、健康な成人男女30人を対象にした実験でこの関係を明らかにし、科学誌『サイエンティフィック・リポーツ』に発表した。
記憶の3段階と呼吸の関係
兵庫医大の中村望助教(神経科学)によると、記憶は「覚えるステージ」「定着させるステージ」「思い出すステージ」の3段階に分けられる。研究チームは特に「覚えるステージ」に着目。これまで遺伝子改変マウスを使った実験で、呼吸の仕方によって記憶力が強化されたり悪化したりすることを報告してきた。今回はヒトで同様の効果が確認できるか検証した。
実験方法と結果
実験では、健康な20~27歳の男女30人に対し、様々な物体が写った40枚の画像を1秒おきに提示して覚えてもらった。その後、80枚の画像を、呼吸のタイミングが無作為になるようずらしながら平均2秒の間隔で示し、先に覚えた40枚に含まれていたかどうかを「はい」「いいえ」で回答させた。これを1人につき10回実施。鼻にチューブを挿入して空気の流れを計測し、呼吸のタイミングと正答率、反応速度の関連を分析した。
その結果、正答率は平均90%以上と高水準だったが、画像を提示されたタイミングが息を吐く後半(呼気の終盤)に当たった場合、正答率が有意に高く、反応時間も短くなることが分かった。逆に、息を吸うタイミングや呼気の前半では、成績が相対的に低下した。
応用可能性と今後の展望
研究チームは、この結果が物忘れ対策やダンスの振り付けの習得など、様々な記憶作業に応用できる可能性があると指摘。特に、音読やシャドーイング(聞いた音声を即座に復唱する訓練)では、息を吐く後半に重要な情報を発声することで、記憶の定着が促進されるかもしれないという。
中村助教は「呼吸は自律神経系の影響を受けるが、意識的にコントロールすることで記憶力を高められる可能性がある。特に試験前の暗記や語学学習に活用できるのではないか」とコメントしている。
関連研究との比較
これまでにも、呼吸と脳機能の関連は示唆されてきた。例えば、鼻呼吸が脳の嗅覚回路を活性化し、記憶や感情処理に影響を与えるという研究や、呼吸リズムが海馬の神経活動と同期するという動物実験の報告がある。今回の研究は、ヒトにおいて「覚えるタイミング」と呼吸位相の関係を具体的に示した点で新規性が高い。



