真夏の炎天下や高温の車内、汗や湿気、海やプールなど、夏は腕時計にとって過酷な季節です。知らず知らずのうちにやってしまいがちなNG習慣は、精度の低下や故障、寿命を縮める原因になることもあります。セイコータイムラボ株式会社で30年以上腕時計の修理に携わる時計修理技能士・山崎秀也氏が、夏に避けたい3つのNG習慣と、腕時計を長く愛用するためのポイントを解説します。
NG習慣その1:真夏の炎天下や高温の車内に置く
人体にも危険な暑さと言われるほど、毎年酷暑を迎える日本の夏ですが、実は腕時計にとっても過酷な環境です。腕時計の精度は一定の温度条件を基準に調整されているため、機械式腕時計・クオーツ腕時計ともに温度変化によって精度が変動することがあります。
特に機械式腕時計は、てんぷやひげぜんまいなどの精密な金属部品が温度によってわずかに伸縮し、精度に影響することがあります。また、真夏の車内温度では50℃~60℃、直射日光があたるダッシュボードの表面温度は70℃~80℃まで上がるといわれており、炎天下や高温になる車内などに長時間置くと、パッキンなどの内部部品を傷める原因になることもあります。
最近の機械式腕時計は温度変化に強い合金や設計上の工夫により、季節変化によるずれは1日あたり数秒程度に抑えられていますが、極端な高温環境では数秒から十数秒程度のずれが生じることがあります。そのため、真夏の炎天下や高温の車内に置くことは避けましょう。
NG習慣その2:汗をかいたまま放置する
夏の暑さだけではなく、夏に発生する湿気や汗は、腕時計にとって大きな負担になります。汗に含まれる塩分や汚れが時計に付着したままになると、ケースや裏ぶた、りゅうず周辺の金属部分がサビやすくなるほか、防水性能を支えるパッキンの劣化につながることがあります。
パッキンが劣化すると防水性能が低下し、湿気が腕時計内部へ入り込みやすくなります。その結果、ガラスの内側が曇ったり、針や文字板が変色・腐食する原因になることがあります。特に、防汗構造ではない腕時計は影響を受けやすいため注意が必要です。
また、汗や湿気の影響は腕時計本体だけではなく、バンドにも影響を与えます。革バンドはカビや変色、ニオイの原因となり、金属バンドはサビや変色、ピンの固着につながることがあります。帰宅後にケースやバンドを柔らかい布で軽く拭くだけでも、腕時計への負担を減らすことができます。
汗をかきやすい季節は、バンドをステンレス・樹脂・ラバーバンドなど、お手入れしやすい素材を選ぶのもひとつの方法です。筆者は夏場は金属バンド、涼しくなったら革バンドに替えるようにしています。季節ごとに付け替えることで、腕時計の雰囲気の変化も楽しんでいます。
NG習慣その3:海やプールで防水性能を確認せず使用する
「防水」と表示されているから大丈夫だろうと、防水性能を確認せずに使用するのは夏にありがちなNG習慣のひとつです。実は、腕時計の防水性能にはいくつかのレベルがあり、すべての防水時計が海水浴やプールでの使用に適しているわけではありません。
例えば、日常生活用防水の腕時計は、手洗いや雨などの日常生活での水濡れを想定したものであり、水泳やマリンレジャーには適していません。一方、日常生活用強化防水の腕時計には、空気ボンベを使用しない水泳などのスポーツにも対応できるモデルが増えてきます。
性能に適していない使用をすると、防水性能が十分ではない腕時計では内部に水が浸入し、故障の原因となることがあります。「防水だから大丈夫」という思い込みは、腕時計の故障や寿命の低下につながる可能性があります。ご自身が使用する腕時計の防水性能を取扱説明書などで確認し、用途に応じて正しく使用するとともに、使用後のケアを心掛けることが大切です。
大切な腕時計を長く使うために
大切な時計を長くご愛用いただくためには、日頃のお手入れと定期的なメンテナンスが重要になります。夏のNG習慣に気をつけながら、ぜひお気に入りの一本を末永くご愛用ください。
山崎秀也氏は、セイコータイムラボ株式会社にて30年以上、セイコーの腕時計を修理する時計修理技能士であり、同社ブロンズマイスター。時計技能競技全国大会にて2002年準優勝、2004年優勝。また、全国で10名しか存在しない、岩手県技能評価認定制度に基づく「いわて機械時計士」の最高位資格である「いわてウオッチマイスター」に認定されている高度な技術を有する技能者です。



