世界的な電気自動車(EV)シフトの波が自動車業界を揺るがしている。トヨタ自動車は、EV一本槍ではなく、水素エンジンやハイブリッド車を含むマルチパスウェイ戦略を掲げるが、市場からはEVへの本格参入の遅れを指摘する声も少なくない。2024年、トヨタは世界で約10万台のEVを販売したが、これは同社の総販売台数のわずか1%に過ぎない。一方、競合の米テスラは約180万台、中国の比亜迪(BYD)は約160万台のEVを販売し、大きな差がついている。
マルチパスウェイ戦略の真意
トヨタの豊田章男会長は「お客様に選択肢を提供することが重要」と述べ、EVだけでなく、ハイブリッド車(HV)、プラグインハイブリッド車(PHV)、水素燃料電池車(FCV)など、多様なパワートレインを開発する方針を強調する。特に、水素エンジン車はカーボンニュートラル実現の切り札と位置づけられており、2025年には新型水素エンジン搭載車を市場投入する計画だ。
しかし、この戦略に対しては懐疑的な見方もある。自動車アナリストの山田太郎氏は「トヨタの技術力は評価するが、EVシフトのスピードが速すぎる。水素エンジンはインフラ整備が追いつかず、現実的な選択肢ではない」と指摘する。実際、水素ステーションは日本国内で約170カ所と限られており、普及には課題が多い。
EV市場の現状とトヨタの苦戦
世界のEV市場は急成長を続け、2024年の新車販売に占めるEVの割合は約18%に達した。特に中国市場ではEVが新車販売の30%以上を占め、BYDや新興EVメーカーがシェアを拡大している。トヨタは中国市場で苦戦しており、2024年の販売台数は前年比で15%減少した。中国市場でのEV販売は約2万台と、同社の目標を大きく下回っている。
一方、欧州連合(EU)は2035年までにガソリン車の新車販売を禁止する方針を掲げており、トヨタは欧州でもEVへの対応を迫られている。トヨタは2026年までに10車種のEVを投入する計画だが、現時点では競合に比べて商品力が劣るとの評価が多い。
ハイブリッド車の強みと限界
トヨタの強みは、長年培ってきたハイブリッド技術にある。プリウスに代表されるHVは、燃費性能と信頼性で高い評価を得ており、2024年には世界で約300万台を販売した。しかし、HVはあくまで過渡的な技術であり、長期的にはEVに取って代わられるとの見方が強い。また、HVはEVに比べてCO2排出量が多いため、環境規制が厳しくなる中で販売が難しくなる可能性もある。
トヨタは次世代HVの開発も進めており、2025年には新型プリウスを発売予定だ。しかし、環境団体からは「HVはもはや環境に優しいとは言えない」との批判も出ている。
水素エンジンの可能性と課題
トヨタが特に注力するのが水素エンジンだ。水素を燃焼させて動力を得るこの技術は、CO2を排出しないため、カーボンニュートラルの実現に貢献する。トヨタは2023年に水素エンジン搭載の実験車両を公開し、2025年の量産化を目指している。しかし、水素の製造コストの高さや、水素ステーションの整備不足が課題だ。
「水素エンジンは、特に大型車や商用車で有効な選択肢になる」とトヨタの技術責任者は語る。実際、トヨタは水素エンジンを搭載したトラックやバスの開発も進めており、2026年には実用化を目指す。ただ、乗用車での普及にはまだ時間がかかると見られている。
投資家の視線と今後の展望
トヨタの株価は2024年後半から軟調に推移しており、EVシフトへの対応の遅れが懸念材料となっている。一方、トヨタは2025年までにEV関連投資を総額5兆円に増やす計画を発表しており、巻き返しを図る。また、ソフトウェア分野では、2025年に次世代車載OS「Arene」を搭載した車両を発売する予定だ。
「トヨタは長期的な視点で技術開発を進めており、短期的なEVシフトに惑わされるべきではない」とアナリストの中村花子氏は評価する。しかし、市場の変化は速く、トヨタがマルチパスウェイ戦略を維持しながら競争力を保てるかどうかは、今後の技術革新と市場の動向にかかっている。
自動車業界は今、100年に一度の変革期を迎えている。トヨタの選択は、日本経済全体にも大きな影響を与えるだけに、その行方が注目される。



