電気自動車(EV)へのシフトが加速する中、自動車部品サプライヤーはかつてない試練に直面している。エンジンやトランスミッションなど内燃機関(ICE)車に不可欠な部品の需要が急減し、多くのサプライヤーが事業構造の抜本的な転換を迫られているのだ。
部品点数の減少がもたらす衝撃
EVは従来のガソリン車と比較して部品点数が大幅に少ない。例えば、エンジン車では約3万点の部品が必要とされるのに対し、EVでは約2万点に減少するとされる。特に、エンジン、排気系、燃料系などのパワートレイン関連部品は不要となり、これらの分野に特化してきたサプライヤーは売上高の大幅な減少に直面している。
また、EVではバッテリーやモーター、インバーターなど新たな部品が必要となるが、これらの分野は既存の部品サプライヤーではなく、電機メーカーや新興企業が強みを持つ。このため、従来のサプライヤーは新たな競合との競争を強いられることになる。
収益構造の悪化と生き残り戦略
部品点数の減少は単に売上高の減少にとどまらず、収益構造そのものを悪化させる。従来、サプライヤーはエンジンやトランスミッションなどの高付加価値部品で高い利益率を享受してきた。しかし、EV化によりこれらの部品が不要になると、利益率の低い汎用部品への依存度が高まる。
さらに、EV向け部品の価格競争は激しく、サプライヤーは価格引き下げ圧力にさらされている。例えば、ある部品メーカーの幹部は「EV向け部品の価格は従来のICE車向けに比べて2〜3割安い」と指摘する。このため、規模の経済や生産効率の向上が不可欠となる。
事業ポートフォリオの転換とM&Aの活発化
こうした状況下で、多くのサプライヤーは事業ポートフォリオの転換を進めている。具体的には、ICE車向け部品からの撤退や縮小、EV向け部品や新エネルギー関連事業へのシフトが加速している。また、M&Aを通じて技術や顧客基盤を獲得する動きも活発化している。
例えば、デンソーは2023年、EV向け熱管理システムの強化を目的に、独コンチネンタルの一部事業を買収した。また、アイシンはEV向けトランスミッションの開発を加速するとともに、水素関連事業にも参入している。
地域別の影響と政府の支援策
EVシフトの影響は地域によっても異なる。特に、自動車産業が経済の中心である日本やドイツでは、部品サプライヤーの雇用や地域経済への影響が大きい。日本政府は2023年、蓄電池の国内生産基盤強化に向け、約3,300億円の支援策を打ち出した。また、経済産業省は自動車部品サプライヤーの事業転換を支援する補助金制度を創設している。
一方、中国市場ではEVの普及が急速に進んでおり、現地サプライヤーはEV向け部品の生産で優位に立っている。中国の部品メーカーは低コストと量産技術を武器に、グローバル市場での存在感を高めている。
今後の展望と課題
EVシフトは今後さらに加速すると予想され、部品サプライヤーにとって生き残りをかけた変革は待ったなしの状況だ。しかし、すべてのサプライヤーがEV関連事業にシフトできるわけではなく、技術力や資金力の差が明らかになりつつある。
特に、中小の部品サプライヤーはリソースの制約から事業転換が難しく、淘汰されるリスクが高い。業界団体の調査によると、日本の自動車部品サプライヤーの約3割が「EVシフトに対応できていない」と回答している。このまま対応が遅れれば、雇用の喪失や地域経済の衰退につながる恐れもある。
一方で、EVシフトは新たなビジネスチャンスも生み出している。例えば、軽量化素材や熱管理技術、ソフトウェア分野では新たな需要が創出されている。こうした分野で強みを持つサプライヤーは、EV時代に成長が期待できる。



